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2020年のワイン界の展望  2020年1月6日


21世紀に入って20年目になります。ワイン界でも毎年毎年いろいろなことが起こり、20年という歳月が流れましたが、大きく見ると、20世紀のワインと21世紀のワインとでは、ずいぶん大きな変化があったのではないかと思います。

ひとつ例を挙げれば、ワインのアルコール度です。20世紀の時代では、ワインの平均アルコール度は12度台半ばでした。しかし今世紀のワインでは13度台半ばを超えた程度になっています。

これは地球の温暖化を背景としながら、ぶどう栽培が変わり、醸造が変わったことを示しています。1年1年の変化では見て取れないワインの変化も、大きなスパンで見るとずいぶんと変化しています。ワインはこの先どう変化していくのでしょうか。


◆ ぶどう・ワインの生産部門

近年の世界のぶどう・ワインの生産では、気象・気候変動によって作柄が大きく影響を受けるようになっています。具体的には熱波の襲来や干ばつ・洪水、雹や遅霜などです。こうした自然環境の変化で、ぶどうの収量や品質が大きく左右されるようになっています。

特に温暖化の懸念は、世界中のワイン産地が潜在的に抱える不安材料で、将来のぶどうとワインの素性と個性が変化するのではないかとして、ワイン産地では具体的な対応が始まってきてもいます。

例えばボルドーでは2019年、従来認められなかった数種類のぶどう品種を温暖化対策として認可したり、シャンパーニュでは過去に使われていたいくつかのぶどう品種の復活があったり、そのほかのワイン産地でも同様の動きが見られるようになっています。(文末リンク)

2020年は、さらにそうしたワイン産地の動きが顕在化するかもしれません。現実のワインのスタイルの変化とともに、そうしたワインの造りの背景にも注目したいと思います。


◆ 世界のワインの流通・消費

2019年の世界のワイン界の大きな動きのひとつは、過去10年以上、急激な成長を遂げてきた中国のワイン市場が一転、大幅な落ち込みを見せたことです。

これまで世界のワイン成長をけん引してきたのはアメリカと中国という2大大国でしたが、中国市場が前年割れとなり、アメリカ市場も頭打ちが近いのではとささやかれる中、この先世界のワイン界がどういう動きを見せることになるのか、注視していきたいと思います。

世界市場ではこの何年か、ロゼワインブームやプロセッコのブレークが継続してきましたが、今年はどうなるでしょう。2019年あたりから缶入りワインが取りざたされるようになっていますが、今年2020年はどういう動きを見せるでしょう。

オレンジワインやナチュラルワインのカテゴリーは、一時のようなメディアの露出は少なくなっているようにも思いますが、こうしたワインの動静にも注目していきたいと思います。


【日本のワイン界】

過去数年を見たとき、日本のワイン消費は伸びているのでしょうか。メディアでは過去最高とか、第〇次ワインブームなどという記事が躍りますが、果たして本当に日本のワイン市場は活況を呈しているのでしょうか。

ワンコインワインなどに代表される低価格帯ワインにも頭打ち感が見られ、以前のような勢いはなくなってきているように思います。1000円台以上のワインとなると前年を追いかけるのがやっとではないかというのが私の現場感です。

2019年2月には、EUからのワインへの関税が撤廃されましたし、チリワインの関税は既にゼロです。またオーストラリアワインの関税は2020年度は1.90パーセントに下がり、2021年度にはゼロとなります。さらにアメリカワインの関税は2025年にはゼロとなります。

こうした関税引き下げで、日本に輸入されるワインの大半に価格の下落インセンティブが働くのではないかと見ていましたが、実際日本のワイン市場での消費者アピールは非常に限定的で、消費者からはワインが値打ちで買いやすくなったという声は、あまり聞かれなかったように思います。

日本のワイン市場は基本的に価格競争がなく、業者間・企業間の競争があまり働かない体質となっているかもしれません。私は価格競争をあおるわけではありませんが、もう少し価格面を含めて、日本のワインマーケットには工夫とダイナミズムがあってよいと思います。

2020年は、日本のワイン市場が活発で、ダイナミックに動く年であると良いと思います。


◆ 日本のワイン消費者と流通

日本の消費者がアルコール飲料をどこで買うかというと、国税庁の調査によると、スーパーマーケット(38パーセント)、コンビニエンスストア(11パーセント)で、日本の消費者の半数がスーパーとコンビニで酒を買っています。

ワインが同様の比率でスーパーとコンビニで買われているかは定かではありませんが、日本の消費者にとって酒類をどこで買うかと言えば、まずはスーパーマーケットが第一選択肢となっているのは確かだと思います。

その他の購買ルートでは、一般酒販店は13.3%、ディスカウントストア(12.0%)、業務用酒販店(10.1%)などとなっています。

もしワインが他の酒類同様、スーパーマーケットから購入されているとすると、ワイン消費者は本当に満足してワインを買えているのだろうかと疑問がわきます。

確かにスーパーマーケットにワインは並んでいますが、消費者は誰かに相談できるわけでもなく、独力でワインを選択することが求められます。この環境で、消費者がワインを積極的に能動的に買おうとするのかどうか、大きな疑問を持ちます。

スーパーマーケット自体は集客能力が高く、来店頻度も高い業態と言えますが、ワイン売り場が同様の集客となっているとはなかなか思いづらいところがあります。

世界のワイン消費もスーパーマーケットからの購入が主流です。しかし欧米のスーパーマーケットのワイン売り場は、その店にとって戦略的で重要な売り場となっていて、ワイン売り場の充実がその店への来店を促す力となっています。つまりスーパーマーケットのワイン売り場は、その店の集客のマグネットになっています。

日本のスーパーマーケットのワイン売り場でそうした売り場展開をしているところは極めてまれです。スーパーマーケットのワイン売り場をその店のお荷物の売り場とするのか、お宝の売り場とするのかは雲泥の違いだと思います。

2020年は、日本のスーパーマーケットのワイン売り場が戦略的な、売り上げが上がる、その店のマグネットとなる売り場に転換することを期待します。

日本のワインのひとり当たりの年間消費量は、いまだ2リットル台です。日本にはコアなワイン層が存在すると思いますが、一般の大多数の消費者にとって、ワインは日常の飲料とは言えないようです。

2020年は、消費者のワイン購買の接点である小売り部門と流通に、更なる工夫が期待されると思います。

(伊藤嘉浩 2020年1月6日)


(文末リンク)

ボルドー、AOCで複数の新品種を認定へー温暖化の影響で 【フランス】 2019年6月16日
ボランジェ、シャンパーニュで昔使われていた数品種を導入ー温暖化対策で 【フランス】 2019年8月23日
フランチャコルタ、使用を禁止された土着品種を許可へ―温暖化対策で 【イタリア】 2017年4月23日


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