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 問題のあるワインを見極める 【第2回】


前回の『問題のあるワインを見極める【第1回】』では、

  1. 酸化しているワイン
  2. コルクテイント(cork taint)/ブショネのあるワイン
  3. イオウ化合物(主に硫化水素)が強く出ているワイン
  4. VA(ヴィーエー/ブイエー)の出ているワイン
  5. ブレタノマイセス(Brettanomyces)の汚染があるワイン
  6. その他の微生物による問題や醸造管理上の問題があると思われるワイン

のうちの(1)〜(3)を取り上げました。今回は(4)〜(6)について見てみたいと思います。


(4)VA(ヴィーエー/ブイエー)の出ているワイン

 VAというのは聞きなれない言葉かもしれません。ワインのテクニカルな用語で、Volatile Acidの頭文字をとってVAと言っています。volatile acid(ヴォラタイルアシッドあるいはボラタイルアシッド)は、日本語で揮発酸と訳されますが、ワインで使うvolatile acid(VA)とは、そのほとんどを酢酸とその派生物質を指して言っています。

 なぜVAが出ているワインが問題なのかというと、酢酸とその派生物質は、ワインに強く作用するからです。においへの作用という観点からは、酢酸それ自体より派生物質であるethyl acetate(エチルアセテート)という物質が、強く作用します。

 VAが強く出ると、ワインは特徴的なにおいを発します。そのにおいの成分は、接着剤のセメダインやマニキュアの除光液から出る匂いと同様のものです。

※(WORLD FINE WINES on lineでは、敢えて物質を特定するためのワインの香りの記述を積極的におこなっていませんが、今回はそのにおいがかなりわかりやすいため、記述しています。)

 ワインから出るVAの匂い(香り)それ自体は、必ずしも不快なものではないかもしれませんが、しかしこれも程度問題で、強く出すぎるとワインとして不適格ということになります。オーストラリア、ニュージーランドでは、ワインに含まれるVAの許容量を法律で規制しています。またワインを輸入する上でいくつかの国は、VAの値に制限を設けています。(日本は設けていません)

 VAを持つワインは、日本のワイン市場においても散見されます。ごく微量のVAの生成は、ワインに個性や複雑みを持たせる場合もあり、VAの生成は100パーセント悪というわけではありません。しかしあまり多いと、問題視されることになるでしょう。


(5)ブレタノマイセス(Brettanomyces)の汚染があるワイン

 ブレタノマイセスとは、酵母の一種です。もう少し正確にBrettanomyces/Dekkera(ブレタノマイセス/デケラ)ということもあります。

 以前より一部のワインに、ワインにとって好ましくない類似性のあるにおいが発生することが指摘されていましたが、近年そのにおいの原因が、ブレタノマイセスという酵母が生成するにおい成分であることがわかってきました。

 ブレタノマイセス関連は、現在ワインの醸造の現場・研究機関で、いろいろ議論がすすんでいる分野でもあります。議論されているのは、ブレタノマイセスが生成し、ワインに影響を与えるとされる主にふたつの物質についてですが、そのうちひとつの物質は、ワインにネガティブに働くと見られています。また、もうひとつの物質は必ずしもネガティブに働くわけではないという意見も出ています。

 しかし大多数のワインメーカーは、この酵母によるワインの汚染を問題視しており、そのにおい成分はワインの品質を低下させるとみています。

 ただこの問題は、原因が特定されてまだ歴史が浅く、世界のワインメーカーのすべてがその問題要素を把握しているというわけではないようです。ですから、自分のワインがブレタノマイセスに汚染されているということを認知しないまま出荷しているケースがあったとしても、強く非難することは出来ないかもしれません。しかしワインの生産者は、早急にこの問題に対処すべきでしょう。

 現状のマーケットの人々が、ブレタノマイセスの明らかな汚染のあるワインを排除することは難しいかもしれません。ひとつの防衛策として、インポーターはワイン生産者に、ブレタノマイセスの問題をどうとらえているかを聞いてみる、ということは出来るのではないでしょうか。

 
(6)その他の微生物による問題や醸造管理上の問題があると思われるワイン

 この項目に含まれる事柄のひとつとして、ワインが瓶詰めされたあと、すなわちワインが製品化されたあとに起こってくる問題があります。

 近年、無ろ過のワインとかノンフィルターあるいはアンフィルターワインという語句を市場でよく見かけるようになりました。マーケットではこうしたワインがより優れたワインであるとか特別なワインであるといったイメージ付けがおこなわれていますが、ろ過をしていないワインは、一面品質にリスクを負ったワインである可能性がある、ということでもあります。

 現にこうしたワインの中で、ボトルの中でマロラクティック発酵が起こっていると思われるワインにときどき出くわします。

 また、無添加ワインといわれるワインも、これは二酸化イオウを醸造上使わないということだと思いますが、こうしたワインは不安定要素を多く抱えたワインということでもあります。

 二酸化イオウを使わなくてもワインは出来ますが、ワインの酸化や微生物の管理あるいはワインの安定を別の形でおこなう必要があります。ワインの品質に問題が出ていなければかまいませんが、事前の品質チェックは良くしておく必要があるでしょう。

 
 今回『問題のあるワインを見極める【第2回】』で取り上げました項目は、【第1回】で取り上げた項目に比べると、その市場での発生頻度は少ないだろうと思います。また、ブレタノマイセスの問題などは、ワインメーカーの間でも必ずしも認知が徹底されているわけではない問題でもあります。

 ですからマーケットでそのワインを認識して指摘することは、現段階では困難を伴うかもしれません。またワインに起こる問題を、その原因のすべてを的確に指摘できるかというと、それはよほどのワインテースティングのプロでも簡単ではないでしょう。

 しかしそうではあっても、ワインをおいしく、楽しく飲もうとする消費者の皆さんに、事前にワインをふるいにかけて、問題のあるワインを排除するという努力は必要だと思います。


 『問題のあるワインを見極める【第1回】と【第2回】』では、ワインに起こりうるネガティブな側面を取り上げました。市場に流通するすべてのワインが、品質を保ったワインであればよいのですが、割合的には少ないながら流通するワインの一部に、問題があるとみなされるワインがあるのは事実です。ワインの流通・販売に携わる皆さんは、この部分にも注意を向けられると良いのではないかと思います。


ちょっとコラムーすべてが悪か

『問題のあるワインを見極める【第1回】と【第2回】』で取り上げました項目は、(2)のコルクテイント(ブショネ)の問題を除き、ワインの醸造上多かれ少なかれ自然的に発生する事象です。

問題はその程度で、その発生物質が微量の場合は、かえってワインに個性を持たせたり、複雑性を与えることにもなり得ます。しかし、その発生量が大きくなりますと、その要素がワインに突出して現れ、それが支配的に出ているワインはどれでもが同じワインになってしまう、ということになっていきます。

問題のあるワインを見極めるというのは、その境界線を見極めるということでもあります。



(伊藤嘉浩 2007年12月)



 
ワインへのネガティブな物質の生成とにおいの発生については、『ワイン専門資料』の中の、
『A-3 ワインにおける『還元臭』『還元的な環境』とはどういうことか』
で詳しく解説しています。詳しくはこちらからどうぞ。


また、『ワールドファインワインズ エデュケーション プログラム』の中のテクニカルコース『C-3 還元臭とは何かーその実態』でも取り上げています。詳しくはこちらからどうぞ。




【関連ページ】

問題のあるワインを見極める 【第1回】
ブショネ(コルクテイント)の検知

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