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ワインの点数評価は、消費者のワイン購入を助けることになるのだろうか


昨今は、100点満点で何点とか20点満点で何点とか、ワインに点数をつけるというのがはやっています。消費者の立場からしても、ワインに点数評価がしてあれば見てしまいます。またその点数評価を参考に、実際にワインを購入するという方も多いのではないでしょうか。


ワインの点数評価の賛否

ワインの点数評価については、世界のワイン界でもよく議論となるところです。否定派・慎重派は、そもそも評価する人物や団体(雑誌など)に信頼性があるのかとか、88点と87点の1点差が明確に説明できるかとか、さまざまな疑問が投げかけられます。

肯定派・積極派は、消費者のワイン選びをわかりやすくする、その人が評価するワインは確かに素晴らしい、見ていて面白い、などの賛成論も聞かれます。

こうしたワインの点数評価に出くわすと、私も野次馬根性でつい見てしまいます。最近では、ワイン売り場の店頭でも、ボトルネックやプライスカードに点数が書いてあるものも結構ありますから、そうしたワインが消費者の目を引くことになるのは確かです。しかしそこに表示してある点数を頼りにワインを購入した消費者に、果たして本当に幸せが訪れているのだろうかと思うこともしばしばです。


得点の高いワインはおいしい?

ワインは非常に嗜好の度合いが強い商品群です。ひと口にワインといっても、そのスタイルはバラバラで、その多様性こそがワインの大きな魅力だとも言えます。ここに5種類の91点を付けたワインがあったとしても、1本1本のワインスタイルがバラバラだったとき、そのうちの1本を91点という高得点であることを理由で購入した時に、本当にそのワインが購入者が好むワインであるのか。これは非常に重要なポイントだと思うのです。

 
例えばそのうちの1本はサンジョヴェーゼ(Sangiovese)、1本はテンプラニーヨ(Tempranillo)、1本はネッビオーロ(Nebbiolo)、あるいはそこに1本ピノノワール(Pinot Noir)が入っていた時、その消費者はどのワインを選ぶのが最も良いのでしょう。

更にはそれぞれのワインの価格が大きく異なっていた場合、たとえばそのサンジョヴェーゼは1本6000円、テンプラニーヨは4000円、ネッビオーロは2500円といったように。

ワインの点数評価と価格とが連動しているのかというと、そういうわけでもなさそうです。『価格の高いワイン=おいしいワイン』というわけでもないということは、おそらくは多くの消費者の皆さんが実感しておられることだろうと思います。つまり、価格が高いワインが必ずしも自分の好みに合うワインとは限らないということです。

ワインの価格がどういうメカニズムで決まるかというのは興味深い論題ですが、ここではそこに深く立ち入りません。しかし一般論としてかなり言えるのは、ワインの価格は品質を代表するということです。ですからワインというのは、価格という点数評価が品質をベースに既につけられている、ということも言えるのではないでしょうか。

ここで注意しなければならないのは、品質が良いとされるワインが、必ずしも多くの人においしいと言ってもらえるワインとは限らないということです。ボルドーやナパのトップレベルのワインを、誰しもが自分の口に合って最高だとは言わないことを皆さんは経験しておられることと思います。

ワインのマーケットでは、すべてのワインに価格が付けられています。価格の正当性に完全な一致が見られるわけではないかもしれませんが、価格というのは市場が消費者に示した一応の点数評価だとも言えます。

個人や団体(メディアなど)が行うワインの点数評価は、市場が設定している価格という点数評価とは異なるところで行われる、かなり恣意的なものなのかもしれません。


それでもやはり、ワインの点数評価は有効か

売り場に頼れる人がいなくて、消費者が独力でワインを選択しなければならないときは、そのボトルネック(あるいはプライスカード)が、購入者の背中を押す役割を担うことになり得ます。これは、ワインの販促手法として、販売者側が使いたくなるのも無理はないようにも思います。しかしそうであっても、それを目安に買った多くの消費者に幸せが訪れることになるのかどうか。

要は、点数評価を頼りにワインを購入した人が、買ったワインにがっかりしなければ良いのです。ですが、本当にがっかりしないで済んでいるのかということなのです。現状の点数評価の実態を見ていると、なかなかそういうわけにはいかないのではないかと思います。

消費者には、『高得点ワイン=おいしいワイン』という先入観がありますから、消費者は1点でも得点の高いワインを買おうとします。これは消費者心理として当然といえます。しかしたとえば98点という高得点を取った1本のワインを、圧倒的多数の人がおいしいというかというと、そういうことはめったに起こらないと言っていいと思います。なぜなら、そのワインの持つスタイルを、高得点を得たというだけで、万人が好むということは考えづらいからです。

消費者には何点という数字があてがわれるだけで、どういう前提や背景でその数字が出ているのかは説明されません。この点数評価を見てワインを買うと、はずれがほとんどないということなら、ワイン販売はどんなに楽になることでしょう。まさしくワインはスーパーマーケットの花形商材となり得ます。

世界で非常に有名なワイン評論家と目される人で、私見ですが、どうしてこういうワインに高評価を与えるのだろうと思っていた人がいます。私の周りの信頼のおける人たちに聞いてみましたところ、彼は自分と仲の良いワイナリーには高得点を付けるし、そのライバルと目されるワイナリーには辛い点を付けるということでした。

そう言われて彼のワイン評価を見てみると、なるほどその通りになっていて、そんなものかと思ったことがあります。その人は、日本ではあまり知られていないかもしれませんが、世界のワイン界では大物のひとりです。

また、2003年のサンテミリオンのシャトー・パヴィ(Chateau Pavie)をめぐっての、ロバート=パーカー(Robert Parker)とジャンシス=ロビンソン(Jancis Robinson)の大論争は、当時世界のワイン界の大きな話題となりました。世界を代表する二人のワイン評論家の意見が、同じワインをめぐって真っ向から対立したのです。パーカーはそのワインにほぼ100点満点をつけて絶賛したのに対し、ジャンシスは20点満点で12点を付け、ばかげたワインと一蹴したのです。その後この論争には大勢が加わり、パーカーサイド、ジャンシスサイド、さらには中間派も現れて、大論争が続きました。

そんなこんなでありますから、何点という点数だけをクローズアップしてアピールしても、消費者はそれを信じて買って本当によかったと思うのだろうか、と心配になります。私はこうした販売手法を全否定するものではありませんが、あまりこれをやりすぎると、かえって自分たち(販売者側)にはワインの吟味力がありません、と宣伝しているように消費者に思われたりしないか、そちらの心配すら出てきます。

消費者にとって、どのボトルを買ってもいつもおいしいワインが手に入る、がっかりすることはない店というのが、何より良い店です。これは、レストラン・バーでも同じです。それには販売側は、不断の商品吟味が欠かせませんが、何より重要なのは、消費者ひとりひとりのワインの好みが違うことを理解して、ひとりひとりに対して個別のサポートをして差し上げることだと思います。

ワイン評論家の意見を参考にしてみるというのはアリだと思います。ですが一度そこでワンクッションおいて、ご自身の評価と照らし合わせてみるということもおやりになってみてはいかがでしょう。

(伊藤嘉浩 2014年5月)


本稿は、2012年5月に発行した『ワインの点数評価は、消費者のワイン購入を助けることになるのか』をベースに加筆したものです。『ニュースレター(無料)』のお申込みはこちらからどうぞ



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