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金賞受賞ワインの怪


 近頃は小売店頭で『金賞受賞ワイン』といったタグを、ボトルネックから下げたワインを見かけることが多くなりました。業者向けの試飲会でも、多くのインポーターが『金賞受賞ワイン』コーナーを設けて、仕入れを促しています。
 
 『金賞受賞ワイン』と言われれば、よほどへそ曲がりでない限り、ほかのワインよりもすぐれているんだろうと思うのが普通です。なんといっても『金賞』を受賞したワインなのですから。

 しかしこれを真に受けてそのワインを仕入れた小売業者、さらにはそれを真に受けて買った消費者の多くに果たして幸せが訪れているのか、と近頃の『金賞受賞ワイン』を飲めば飲むほど疑問が湧いてきます。


金賞ワインの大安売り

 いまや世界のワイン界は、新旧入り乱れての群雄割拠の時代です。特にヨーロッパのワインにとっては試練の時代(脚注 1)といえるでしょう。さらに過去10数年急激な成長を遂げ、わが世の春を謳歌してきたオーストラリアワインにも生産過剰の波(脚注 2)が押し寄せています。

 世界のワイナリーにとって、そのワイナリーがよほどの名声を獲得した、たとえばボルドーのトップワインでもない限り、市場で自社のワインを扱ってもらうのは簡単なことではありません。ワイナリー側から見て、最も手っ取り早く自社のワインを市場にアピールできる手立ては、

(1)有名なワイン評論家に取り上げてもらって、ワインに高得点をつけてもらう
(2)ワインショーに出品して賞をもらう

ということでしょう。この二つのうちのどちらかを満たせば、苦労なくワインを売りさばける可能性が高まるというわけです。(1)の著名評論家から高得点を得るというのは、ワイナリーにとってワインを販売する上で実際に非常に強力な武器となり、世界の多くのワイナリーがそのメガネにかなうように(つまりその評論家の好みに合致するように)ワインを造ろうとしています。が、実際にそのワインが取り上げられるというのは期待薄のようです。

 もっと確率が高い手段として(2)のワインショーで賞をもらうというのが、いまひとつの選択肢です。しかしこの『ワインショー』の一言で表される言葉にどれほどの価値があるのか、どれほどの信頼性があるのかは、実のところ語られることはめったにないようです。

 現在の世界のワインショーの実態は、確かに権威があると目されるいくつかのワインショーも存在しますが、多くは誰が主催しているのか、どういう選考をしているのか、誰がジャッジになっているのかなどについて、ほとんど説明不能のワインショーも横行しているようです。なかには特定の、単一あるいは複数のワイナリーと利害関係が一致した業者グループが、ワインのプロモーションの一環としてワインショーを仕立てる、ということもおこなわれているようです。かくして『ワインショー』もワイン同様次々に増産されていきます。そこではワインの品質が吟味されるということは、表向きは『ある』ことになっていますが、実は『ない』のでしょう。

 『金賞受賞ワイン』あるいは『銀賞受賞』『銅賞受賞』と書いておけば、消費者は言うに及ばず、流通関係者もありがたがってワインを買ってしまう(仕入れてしまう)という構図は確かに存在しているようです。

 当然のことながらワインショーのすべてが疑わしいといっているわけではありません。しかしながら、日本のいくつかのインポーターの皆さんが『金賞受賞ワイン』として、すぐれたワインであるということを前提として売りに出しておられるワインの一部に、『そういうワインショー』の実態を想像せずにはいられないワインがあるのは否定できないようです。

 実際、オーストラリアではあまりにもワインショーが増えて、猫も杓子もとボトルにペタペタと受賞シールが貼られるようになり、受賞ワイン=優良ワインの図式が保てなくなってしまいました。そこでオーストラリアではワイン業界の自主ルールとして、2005年のヴィンテージより、公認されたワインショー以外の受賞シールをボトルに貼ることを禁止しています。(脚注 3)


インポーターと流通関係の皆様への提言

 試飲会などにお邪魔して思いますのは、同じインポーターの品揃えの中で、『金賞受賞ワイン』コーナーのワインのほうが、その他のワインに比べてコストパフォーマンスがよくない場合がままある、というのはなぜかということです。本来はその逆であるべきではないでしょうか。

 それぞれの個別の企業体のおやりになることにつべこべ言うのはどうかとも思いますが、品質の劣る『金賞受賞ワイン』が流通に乗り、最終的に消費者の手に渡ることは、短期的には売り上げを増やせるかもしれませんが、結果的に消費者の支持が得られるでしょうか。
 
 特に日本の消費者は、品質を理解し、判断する能力が高いといっていいと思います。ワインの小難しい能書きはわからなくても、ワインの良し悪しを判断し、コストパフォーマンスの悪いワインは敬遠しています。日本の消費者はそういう特性を強く持っていますから、『消費者にはどうせわからないだろう』といった消費者軽視のマーケティングは成功しないでしょう。それどころか、そういった手法でワインを販売する企業に対して、消費者はきびしい目を向けてくることでしょう。

 事実、すでに一部の心あるワイン業者の中からは、『金賞受賞ワイン』コーナーのワインは、気をつけなければいけないという声が聞こえています。もちろん『金賞受賞ワイン』コーナーに並んでいるワインが、ほかのワインよりなるほど優れているという場合は問題ありません。

 ワインのインポーター、流通業者の皆様にお願いしたいことは、『ワインショー』のすべてが信頼に耐えるというわけではないという実態があるため、輸入(仕入れ)の際にはぜひきちんとテースティングをおこなっていただきたいということです。輸入(仕入れ)の段階できちんとテースティングしてふるいにかけないと、自社の信用に傷がつきかねないワインが入ってきてしまう恐れがあり、結果的に経営にマイナス要因を与えてしまうでしょう。

 このワインは何とかという賞を取っています、このワインは何とかさんが高得点をつけています、といった売り方は確かに反乱しています。私はこうした売り方を全否定するものではありませんが、考えなくてはならない重要なことは、消費者がそうした売り方に従って購入したワインに、栓を開けて飲んだときに本当に満足するかどうかです。こうした販売手法が果たして本当に自社の経営にとってプラスになるのかどうか、経営者層、マネージメントを司る立場におられる皆様にはぜひお考えいただくといいのではないかと思います。


(伊藤嘉浩 2006年10月)


【脚注】
(1)ヨーロッパのワインにとっては試練の時代
     『ヨーロッパのワイン、大改革を断行へ
(2)オーストラリアワインにも生産過剰の波
     『オーストラリアワインの快進撃、スローダウンか
(3)受賞シールをボトルに貼ることを禁止
     『おかしなワインメダルにノー


【関連ページ】

ワインの流通と販売に携わる人たちがすべきテースティング
ワインのラベルを飲む人々
ワインの点数評価は、消費者のワイン購入を助けることになるのだろうか


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