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Home >Wine Making > Home >Marketing > Home >Tasting > ソービニオンブランを風味別で品揃えしてみる (『シャルドネを風味別で品揃えしてみる』はこちらからどうぞ) 前回はシャルドネでしたが、今回は『ソービニオンブランを風味別で品揃えしてみる』をお届けします。 ソービニオンブランは人気のあるワインですが、好みも分かれるワインでもあるようです。好きな人は大好きだとおっしゃいますが、反面苦手・嫌いという方も多い印象を持ちます。 ソービニオンブランが苦手・嫌いという方は、その香り・匂いが嫌だという方が多く、またソービニオンブランが好きだという方は、その特有の香りにひかれるという方が多いようです。 ソービニオンブランの特有の香りというのは、青草のようなとか、青ピーマン、アスパラガスの缶詰の匂いとか、時には“猫のおしっこ”などという表現も聞かれ、こうした香りがソービニオンブランの好みを分けていると言われます。
ソービニオンブランは嫌いと言う人でも、こうしたトロピカルな感じを持ったソービニオンブランは好き、とおっしゃる方も多くおられます。 従来は、典型的なソービニオンブランといえば、フランス・ロワールのSancerre(サンセール)やPouilly Fume(プイイ・フュメ)などが筆頭に挙がり、確かに冒頭にあげたような青草のような香りを持つワインをもって基準的なソービニオンブランと認識していたと思います。 しかし近年は、サンセールやプイイ・フュメでも、トロピカル系の香りを持つソービニオンブランが散見され、従来のロワールのソービニオンブランと言えばこんな感じ、という共通認識が通用しない場面も多くなっている気がします。 またソービニオンブランの産地が世界に広がり、従来の『典型的』と言われるタイプとは若干異なったソービニオンブランが選択できるようになっています。 例えば南アフリカ、例えばチリ、カリフォルニア、オーストラリアなどなど、今ではソービニオンブランの産地がたくさん挙がります。中でも筆頭はニュージーランドでしょう。 かつてはソービニオンブランといえばフランス・ロワールが挙がりましたが、今ではむしろソービニオンブランといえばニュージーランドが一番初めにひらめくことになっているかもしれません。 ニュージーランド、特にMarlborough(マールボロ)のワインは有名ですが、ニュージーランドのソービニオンブランは、パッションフルーツ系の香りや、いわゆる“猫のおしっこ”系の香りを持つものも多く、香り成分がはっきりしている印象です。このあたりがニュージーランドのソービニオンブランのイメージに大きく貢献していると言えるかもしれません。 現在では、ソービニオンブランといってもいろいろなタイプのソービニオンブランが選べるようになっていて、それぞれの消費者に合う風味のソービニオンブランの品ぞろえができる環境になってきていると思います。 しかしなぜソービニオンブランのスタイルが変化したり、その香りが多様化しているのか。そのあたりが気になるところです。 近年ソービニオンブランの香りの研究が、革新的に進みました。これによりソービニオンブランから放たれるいくつかの香り成分が特定され、その香り成分がどのように生成されるのかという発生機序が明らかになってきました。 もしかするとソービニオンブランの香りで、3MHとか3MHA、4MMP、BMといった略号のようなものをご覧になった方もあろうかと思います。これらはソービニオンブランのそれぞれの特徴的な香りの発生源となる物質で、例えば3MHは3-mercaptohexan-1-olという物質の略号です。 3MHはグレープフルーツ様の香りを発し、3MHAはパッションフルーツ様の香りを発します。こうした物質はぶどう果汁からワインになる過程で生成されるイオウ化合物で、ワイン界ではvolatile thiols(ヴォラタイルチオール)と言っています。 ソービニオンブラン特有のそれぞれの香りの出現には、上記のようなイオウ化合物が関わっているということが解明され、同じソービニオンブランというぶどう品種でありながら、なぜ違う匂い物質が生成されるのかというメカニズム(発生機序)が解明されました。 このソービニオンブランにおけるvolatile thiols(ヴォラタイルチオール)の解明を行ったのは、ボルドー大学で研究をされた富永敬俊博士(故人)です。 これによって世界のワイン生産者・ぶどう生産者には、ソービニオンブランについてはその香りの出現をぶどうの栽培(具体的には収穫時)にコントロールするという、いわゆるフレーバーコントロールの可能性が示唆され、その道筋が開けました。 私は富永先生のこの研究は、近年の世界のさまざまあるワイン研究の中で、最も優れた研究のひとつだと思っています。実際世界のワイン界に与えた、特に現場実践に与えた影響は非常に大きいものがあると思います。 上記のイオウ化合物は、ひとつのソービニオンブランに1種類だけ現れるわけではなく、複数混在する場合もあり、香りが複合する場合が多いと言えると思いますが、こうしたトロピカル系の香りというのは、昔のロワールのソービニオンブランではあまり現れていなかった印象を持っています。 従来の典型的と言われたソービニオンブランの香りは、青草のようなとか青ピーマンのようなと言われるものですが、これはmethoxypyrazines(メトキシピラジン)と呼ばれるもので、富永先生の研究が出る前は、ソービニオンブランの主要な香り成分はメトキシピラジンで、これがソービニオンブランに強い香りの個性を与えているといわれていました。 しかし現代ではソービニオンブランの香りはそれに加え、3MHとか3MHA、4MMPというややトロピカル系の香りも多く表れていまして、ロワールのワインであってもその傾向が見られます。 なぜロワールのソービニオンブランの香りに変化が生じ、多様化しているのかということを考えるとき、産地の気候環境の変化に目が行きます。つまりロワールのソービニオンブランの個性が変化しているのは、ぶどうの熟度が変化したからではないのか、ということです。これは私に産地の温暖化の可能性を示唆します。 ソービニオンブランのぶどうの成熟度が変わると、ぶどうの中でその段階に応じて香り成分のもととなる物質(前駆体といっています)が変化する。それぞれの熟度の段階に応じた物質がぶどう内部で生成され、その物質の多さによってワインの発酵後に現れる個別の3MHや3MHAといったイオウ化合物(volatile thiols)の量が変化する。結果それがソービニオンブランの香りの個性に反映する。 これが富永先生の研究の骨子だと思いますが、ぶどうの生育地の気候環境・温度環境が異なれば、ぶどうの素性・成熟度も異なりますから、その観点からも産地の気候環境が変化すれば、ワインの個性が変化するのは納得のいく話だと思います。特にソービニオンブランでは、香りの出現に大きく影響するということになるのだと思います。 こうした観点から、世界のソービニオンブランとその産地を見てみるというのも一興かと思います。こんな面倒くさいことを考えなくても、現実にいろいろなタイプのソービニオンブランがあるのは確かですから、『こんなに違う、面白い』と消費者の皆さんがソービニオンブランを飲んで思ってくださるのが何よりだと思います。 蛇足ですが、ソービニオンブランの特徴的な香りのもとである上記各種のチオール類は、実はシャルドネにも存在するというのです。しかも同種の物質がほとんど同じくらいの量存在しているというのです。 これは最近Australian Wine Reserch Institute(AWRI)の研究で示されたものですが、私はこれを聞いて驚きました。ソービニオンブランと同様に、シャルドネもほぼ同じ程度の匂い物質を持っているにもかかわらず、シャルドネにはソービニオンブランのような特徴的な香りはほとんどないからです。 これにはAWRIも驚いたようで、いろいろな考察はあるようですが、なぜソービニオンブランではそれらの香りが出現してシャルドネではそれほど出ないのかの『なぜ』の解明に向けて動き出しているようです。 近年ワインの香りについては研究と解明が進んでいます。例えばRiesling、Gewurztraminer、Viognierなど、特徴的な香りを持つワインについては『なぜ』の追求が行われやすいのですが、Chardonnayは中性的で、特徴的だと思われていない分、香りの追求がされてこなかったのかもしれません。 ワインの香りというのは、個性的である分、好き嫌いがわかれることもあります。ワインを提供する側は、そのあたりも考慮に入れて、個別のワインをお薦めするというのはいかがでしょうか。 【捕捉】 3MH=3-mercaptohexan-1-ol 3MHA=3-mercaptohexanol acetate 4MMP= 4-mercapto-4-methylpentan-2-one (伊藤嘉浩 2019年12月) 本稿は、2017年12月発行の『WORLD FINE WINES ニュースレター』を転載したものです。
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