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この記事は、【Winemaking】【Viticulture】【Tasting】【Marketing】すべての分野に関わることから、それぞれのセクションに掲載されています。


ワインのアルコール度数をめぐる議論
   ―ぶどうが熟すとはどういう状態をいうのか―


近年ワインをめぐる議論のひとつに、ワインのアルコール度数をめぐる議論があります。ここ数年、特にカリフォルニアなどで造られるワインは、アルコール度数が高い傾向にあり、度数が14度を超えるものも珍しくなくなっています。ときには、15度を超えるものも見受けられます。このことは何を意味しているのでしょうか。少しその背景を探ってみたいと思います。

ワインのアルコール度数が高くなる背景には、いろいろなことが考えられます。その大前提として、高いアルコール度を得るためには原料ぶどうの糖度が高くなければならない、ということを知っておく必要があります。ワインのアルコール度数をめぐる議論の根底にはいつも、ワインのアルコールはどこから生まれるのかという、アルコール発酵の原理が働いています。(この部分の話は『ワイン造りの本質』(脚注 1)をご覧ください。)

さて、近年のワインの高アルコール化は、密接にマーケットの需要とも関連しているようです。それは、マーケットつまりワインを飲む消費者がそれを許容している、あるいは受容している部分があるということです。

アルコールはワインを構成する数ある物質の中で最も中心的な位置を占める物質ですが、そのパーセンテージがほんの1パーセント変動するだけで、ワインはかなり異なった様相を呈します。今でも多くのヨーロッパの産地のワインは、12パーセント台あるいは13パーセント台に収まっていますが、しかしアルコール度数が10パーセント台や11パーセント台前半となるとかなり弱々しく、水っぽく感じられます。

アルコールはワインにボディを与える物質であり、味覚的に刺激を与える物質ですから、アルコール度が高ければより刺激的で、強くリッチな印象を与えます。近年のいわゆるニューワールドワインの台頭は、その豊富な日照量に支えられた気候のもとでつくられる、熟したぶどうから得られる比較的高いアルコール度を持ったワインが、その躍進を支えているといえるかもしれません。


更なる高アルコール度化の背景

前節でも述べたとおり、ワインのアルコール度数の上昇傾向のひとつに、ニューワールドワインの台頭が挙げられるのですが、最近の動きは一部のワインで、更なる高アルコール度化がみられるようになっているという点です。

アルコール度数14パーセント台あるいは15パーセントを超えるワインについて議論が分かれるのは、ワインが意図的あるいは恣意的に操作されて造られている、という点をめぐってです。この意図的あるいは恣意的な操作というのには二つの側面があります。

ひとつは、高いアルコール度を得るためになされるぶどうに対する処理の部分です。いまひとつは、そうした高アルコールワインがよいワインであるという基準が、たとえばロバートパーカーなどのような限られた人々によって設定され、操作されているという点をめぐってです。

そういうワインこそが優れたワインであるというメッセージが市場に送られ、市場あるいは消費者は盲目的にそれを受け入れ、商業的にそうしたワインが売れてしまうという現実は確かにあるようです。それゆえ、ワイン生産者の一部は、意図的にそういうワインを造ろうとしています。そうすれば評論家のメガネにかない、そのワインは高得点を獲得し、商売は繁盛するというわけです。


高いアルコール度を得るための方策

ワインに高いアルコール度を与えるためには、どうしても高い糖度のぶどうが必要です。酒に高いアルコール度を与える最も簡単な方法は、アルコールそれ自体を添加するということですが、それではポートなどのフォーティファイドワイン(酒精強化ワイン)となってしまい、テーブルワインではなくなってしまいます。



収穫を遅らせてぶどうがしぼんだ状態のシラーズ(Shiraz) オーストラリア バロッサバレーで

そこで、カリフォルニアなどの一部の生産者は、ぶどうの収穫を遅らせるという方法をとりだしました。なかには、通常の収穫よりも1ヶ月から数ヶ月も収穫を遅らせるという生産者もあるようです。

そうすると、ぶどうの粒の中の水分は徐々に失われ、いわゆる果汁が凝縮された状態となり、結果として糖度が増すということになります。この手法自体は、格別革新的というわけではなく、白ワインについてはレイトハーベスト(late harvest:遅摘み)として古くからおこなわれているものです。

赤ワインについてもイタリアのパッシート(passito)など、一部ではおこなわれてきましたが、いずれも甘口のワインを造る手法として用いられてきました。しかしこの手法がアルコール度数の高いドライな赤ワイン造りに取り入れられているわけです。

この手法自体は自然であり非難の余地はありませんが、考慮すべきは出来上がってくるワインがどうであるのかという点です。この手法に疑問を抱く人たちの意見は、ワインは単にアルコールが増しさえすればよいワインといえるのかという点にあるようです。この疑問はいろいろな示唆を含んでいます。


ワインのバランスとアルコール度

『ワインの本質』(脚注 2)の中でも述べていますが、ワインは非常に多くの多様な物質が混在し、それらが時として複雑に反応し、絡み合って、その全体が結果としてわれわれにワインの風味と味覚を与えています。

事実、ワインをテースティングしていて、高いアルコール度を持つワインであっても、よくこれほど高いアルコールを得られたものだとその部分には感心するものの、アルコールが強調されすぎてそれだけが突出し、深みや複雑みに欠けるワインに遭遇することはままあることです。

これらのことから、単にアルコール度数の高い低いを取り上げて言及するのは、かなり短絡的な議論といえそうです。ワインには非常に多様な要素が混在していますから、その中のひとつの要素だけを取り上げてそのことだけを議論してみても、大して有益な議論にはならないだろうと思われます。その意味で、全体としてそのワインがどうであるのかというバランスをみるというのは非常に重要なことだと思われます。


ちょっとコラム
 ―Chateau Pavie 2003をめぐる論争―

この論争は、2003年のSt Emillion(サンテミリオン)のChateau Pavie(シャトーパヴィ)をめぐって、2004年4月ごろ、ロバートパーカーとジャンシスロビンソンの間で勃発しました。2004年4月現在、2003年のシャトーパヴィはまだ瓶詰めされておらず、樽の中にあったわけですが、そのワインの出来をめぐって両者の間で激しいやりとりが交わされました。

パーカーはこのワインに対して彼の得点法では最高評価の95−100点をつけ絶賛したのに対し、ジャンシスは20点満点中12点をつけ、ばかげたワインと一蹴しました。パーカーはこのワインを『リッチでミネラルを感じ骨格がしっかりしていて高貴なワイン』と評していますが、対してジャンシスは、『強烈爆弾のような大衆受けする味で、ワインが生まれる風土とか伝統、食事との相性などとはまったく無縁のワイン。ボルドーワインというよりレイトハーベストのジンファンデルにより近いワイン。』と評しています。

おなじワインに対して、ふたりの世界を代表すると目される批評家がまったく正反対の評価をしていることに大きな関心を持ちますが、確かに一部のボルドーワインで超過熟(super ripeness)のぶどうから高いアルコール度のワインを生産するシャトーが出てきているようで、シャトーパヴィはその先駆的なワイナリーのようです。

私自身はこのワインをテースティングする機会に恵まれていませんが、テースティング後どういう評価を下すことになるのか、自分自身の評価の行方に関心を持っています。

なおこのワインに関しては、この論争勃発後世界の著名ワイン評論家が論争に参戦し、パーカーサイド、ジャンシスサイド、その他に別れてしばらく論戦が続きました。



(伊藤嘉浩 写真共)

ワインの高アルコール度化からの回帰はあるのか』も合わせてごらんください。



【関連ページ】

(脚注 1)
ワイン造りの本質
(脚注 2)
ワインの本質

ワインの高アルコール度化からの回帰はあるのか』
ワイントレンドと日本市場
ぶどうのとれる場所とワインの個性
『ワインの『同質化』の議論を考える
ワインでいう『補糖』って何?−その是非論』
10t/ha?70hl/ha?−ワインに関する単位の話




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