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このページは、【Viticulture】【Wine Making】の両方のセクションに掲載されています


 10t/ha?70hl/ha?-ワインに関する単位の話


ぶどうの収穫量を表す単位ー10t/ha?70hl/ha?

ワイン業界の中では、ワインの話をしたり読んだりすると、いろいろな数字が出てきます。それらの数字には単位がついています。たとえば10t/haとか70hl/haとか、30mg/Lとか1.5g/Lというようにです。数字はpHとかTA、あるいはVAといった略語のようなものの数値を示している場合もあることでしょう。

ワインはこの30年ほどでいろいろと科学的な解明が進んできました。それとともにいろいろな成分・分量を計ることによって、それがワインにどう影響するのかを探るようになってきました。今ではそれらはワインを造るうえで、ことにワインの品質や個性にどう影響するかを見るうえで、非常に重要な指標となっています。

こうした数値は、本来ワインメーカーサイドで取り扱うものですが、近年はマーケットでもそうした数字の記述を見かけるようになっています。しかし実際にはワインの流通関係者の間ではぶどう栽培やワイン醸造への距離感が遠く、何を言っているのかよくわからないという場面もありそうです。

今回はその中で比較的頻繁に登場するいくつかの〝単位“を取り上げてみたいと思います。

 
西オーストラリア Mountford Wineryのぶどう畑

単位面積当たりのぶどうの収穫量は、ぶどう園・ワイナリー
の方針によって異なる。

まず始めは10t/haです。これは1ヘクタール当たりのぶどうの収穫量を言っています。1ヘクタールは1辺が100m×100mの面積のことです。(1辺が10m×10mの面積を1a(アール)といいます。100a=1haです。)10t/haというのは1ヘクタールの面積のぶどう畑から10t(トン)のぶどうがとれたということです。

これと似たような単位で70hl/haというようにhl/haという単位で書かれていることがあります。よくフランスのAOCの収穫量の規制基準などで見られる単位です。これは1ヘクタール当たり7,000リットルのぶどう果汁を取ったという意味です。hlはヘクトリットルと読みます。ヘクトというのは100倍を表す単位です。70hlは70リットルの100倍、つまり7,000リットルのことです。

さてではなぜ単位面積当たりのぶどう収穫量を示すのにt/haとhl/haというふたつの示し方があるのかということになります。このふたつ、何が違うかということになりますが、t/haは単純に収穫されたぶどうの重さを量ったものです。

それに対しhl/haというのは、1ヘクタールから収穫されたぶどうを絞ってジュースにした時の量を言っています。ぶどう(ワイン)を絞るとき果皮や種、果梗は取り除きますから、その分はぶどうの重量から外されることになります。hl/haというのは、1ヘクタールから収穫されたぶどうからどれぐらいのワインがとれるのかを表しています。

ぶどうの搾汁量はぶどうの品種によっても異なりますが、大雑把に1トン(1,000kg)のぶどうを絞ると700リットル程度の果汁がとれます。ですから10t/ha と70hl/haは、ワインになる量を見るうえで、大体等しいと考えることができます。

さてしかし、この数字が一体何を意味しているのかを見るということが本来は重要なことです。単位面積当たりのぶどうの収穫量とワインの品質の関係を見るとき、従来から収量を抑えるとぶどう(=ワイン)の品質が上がると言われてきました。

それなのでフランスのAOCなどでは、そのAOCを名乗るためのぶどうの単位面積当たりの収穫量(フランスではhl/ha)を設定してきました。これはぶどうの収量とワインの品質の経験則から導かれたことです。私も単位面積当たりの収量を落とすとワインの品質が上がるということが、大きなスパンとしては、一般的には言えるのだろうと思っています。

非常にカジュアルなワインには50t/ha以上も収穫されるぶどうが使われるといいますし、25-30t/haというと並級のワインの印象を持ちます。これが10t/haあたりとなると相当上質な感じを持つことになるかもしれません。

注意を要するのは、現代のぶどう栽培ではぶどうの収量を下げないでぶどう(ワイン)の品質を上げたり、あるいは収量を上げても品質が向上するようにする施策がとられるようになっています。また、ぶどうの収量を落とすとワインの品質が上がるというのは定説めいているが、本当に正しいのかと疑問を投げかける人たちもいます。

したがって、単位面積当たりのぶどう収穫量だけを見て、ワインの品質に言及するのは危険を伴うかもしれません。また、何でもかんでも収量が少ないのが良いとは言い切れない感じもします。

しかし10t/haと30t/ha、50t/haではものすごくぶどうの量が違うのは事実です。このあたりは目安になることでしょう。(文末リンク)


ぶどうの糖度と酸度を表す単位

ぶどうの収穫では、糖度と酸度が重要な意味を持ってきます。糖度は直接アルコール度数とリンクしますから、マーケットにおいても重要な指標です。糖度を表す単位は複数使われていて、ワイン産地によって使う単位が異なることもあります。が、現在では糖度の単位は、Brix(ブリックス)かBaumé(ボーメ)が使われるケースが多いようです。

 
ぶどうの成長による糖度の蓄積

縦軸は糖度をBrix(ブリックス)で示している。横軸はぶどうの生育日数


また二つの単位を両方使う場合もあります。例えばぶどう畑でぶどうの糖度を計るときはブリックスを使い、そのぶどうがワイナリーに持ち込まれて発酵が始まると、同じ果汁に対してボーメが使われるというようにです。これはボーメの値が潜在アルコール度に近い値であるため、発酵途中では果汁をボーメで計ったほうが分かりやすいからです。

例えば糖度がブリックスで23度のぶどうの潜在アルコール度は13パーセント半ばです。ブリックス23度はボーメ12.8度(目測13度)で、アルコール度数と近似値です。ですから発酵途中のぶどう果汁はボーメで見たほうが、アルコール度数との関係性で直感的にわかりやすいと言えます。そういうわけで、ぶどう畑ではブリックスで計っても、ワイナリーではボーメを使うということが起こります。

ぶどう(=ワイン)を見るうえでもうひとつの重要な要素は酸です。ワインには多くの種類の酸が存在しますが、重要なのは酒石酸・リンゴ酸・乳酸の3つです。これらの酸が、ワインの味覚感覚に大きく働き、ワインに個性を与えています。

以前はワインの酸を表す指標としてTA(ティーエー)というのがよく使われていました。一部でTAはTotal Acidityの略だと誤解されて、それが日本にも伝わり、日本では総酸度という使われ方がしました。

しかしTAはTotal Acidityの略ではなくTitratable Acidityの略で、滴定酸度と言われるものです。5.8g/L(リットル)のように表します。

現在TAは世界のワイン界ではあまり使われなくなって、今ではワインの酸度を表すのにはもっぱらpH(ピーエイチ)が使われます。pHとは水素イオン濃度のことで、物質の酸性・アルカリ性(塩基性)の度合いを客観的に測る尺度です。ほとんどのワインはpH 3~pH 4の間に収まっています。ただしTAは現在でも参考値として使われることがあります。


ワインの成分を計る単位

ワインには多数の微量成分が混在します。そうした微量成分も、ワインの個性や品質、味覚感覚に時として大きく影響します。そうした微量成分は、ワイン界ではもっぱらmg/Lという単位が使われます。例えば総二酸化イオウ使用量110 mg/Lというようにです。

近年のワインの生産現場は過去と比べて大きく変化をしています。その変化の背景に大きくあるのがワインへの科学の導入、科学的な手法の導入です。それによってぶどう栽培とワインの醸造・管理は大きく変わり、その結果現在我々が手にするワインに非常に大きな変化をもたらしています。

現代では過去には言及がなかった数値やそれを表す単位がいくつも現れ、使われています。それが何を意味して、ワインとどうつながっているのかを基本的な部分で理解していると、ずっとワインが分かりやすくなると思います。

私はワインをマーケットの人たちが学術的に勉強するというのには積極的に賛成はしないのですが、時々現れるワインに関する数値・単位を少しよく見てみると、そこからワインの基礎的な部分・枠組みが見えるのではないかと思います。これはワインへの更なる理解への入り口になるのではないかと思います。

この『ニュースレター』の短い記述では、とてもその中身にまで触れることができませんが、ぶどうとワイン醸造の基礎的なことを理解してワインをテースティングすると、これまでとはずいぶん違うワインの景色が見えてきます。このことは必ずや皆様をブラッシュアップさせ、より高い水準でのワインのプロフェッショナルな仕事につながると確信します。



本稿は、2016年9月発行の『WORLD FINE WINES ニュースレター』に若干の加筆をしたものです。

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(伊藤嘉浩 2017年3月)


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(文末リンク)
ワインの品質と生産量の関係



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