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ワイン販売とホスピタリティ                  

 ホスピタリティ(hospitality)ということばはあまり一般的ではないかもしれません。日本語でぴったりこの一語で言い表せる単語があるかどうかと考えますが、意味としては、人を心地よくさせることとか、心休まるようなもてなしをすることというような意味です。病院(hospital)はホスピタリティがある場所という意味です。ワインを販売するのに何よりも大切なのは、売り手の側にこのホスピタリティがあるかどうかだと思います。今回はこのホスピタリティについて取り上げてみたいと思います。


ワインの売り手と消費者の関係

 一般的にワインを買おうとする、あるいはレストランなどでワインを注文しようとする消費者にとって、その店でワインについて口を開くというのは少し勇気のいるものです。専門性が高く思える店ほど気後れがします。たとえ店の側が消費者に威圧的になっていないと思っていても、買い手の側は往々にして緊張状態におかれます。

 そのひとつの理由は、店の持つ雰囲気も大きいのですが、その店に並んでいるワインの品揃えにあります。レストランでいえばワインリストということになりましょうか。ワインを手広く扱えば扱うほど、品揃えは増えていきます。よほどのワイン通であっても、その店に並んでいるワインに精通しているなどということは考えづらいことです。つまり買い手は何がなんだかよくわからない状態で店のなかで立っているのです。

 かたや店側にとっては、毎日店にいてそれらのワインを見て管理しているわけですから、いわば日常の見慣れた光景です。まして、明らかに店側のほうが個別のワインの情報についてよく知っているわけですから、ここで少しでも威圧的な態度を消費者にとれば、買い手の側は非常に敏感にそれを察知することになります。いやみに思ったりするわけです。このワインの売り手と買い手の心理のギャップを理解しておくことは、ワインの売り手にとって非常に重要なことです。


ホスピタリティ インダストリー(hospitality industry)

 よく欧米ではホスピタリティインダストリーということばが使われます。直訳すればおもてなし産業とでもいうことになりましょうか。たとえばホテル、旅館などの宿泊業はその典型といえるでしょう。彼らは部屋やベッド、レストランなどのハードも提供しますが、それらすべては消費者に対するサービスのうえに成り立っています。このサービスというものは目に見えない、形のないものです。消費者はこの目に見えない、形のない店側からのサービス、つまりホスピタリティを心地よく感じて満足を得るわけです。そしてそのサービスが気に入れば、またこの次も来てみようと強い印象を受けるわけです。ここで重要なことは、消費者は部屋の調度品が豪華だったとか、じゅうたんがふかふかだったということに満足感の第1優先順位を与えているわけではないということです。

 ホスピタリティインダストリーとしてよく取り上げられるのは、ホテル、レストランなどの飲食宿泊業、航空会社、旅行会社をはじめとする観光業などですが、専門性の高い商品を扱う小売業はホスピタリティつまりもてなしの心なしには成功しない業種のひとつです。ワイン小売業はそのひとつです。いくらすばらしいワインを取り揃えてみても、来店した消費者を心地よくさせることが出来なければ客はまたあの店に行ってみようとは思わないでしょう。


ホスピタリティとは

 さてしかしホスピタリティとは具体的にどんなことをさすのでしょうか。ひとつ例をあげたいと思います。私のおります西オーストラリアのマウントフォードワイナリーは家族経営の小規模なワイナリーです。いわゆるブティックワイナリーです。とてもいいワインを造っていてワイナリーもそれを誇りにしています。そのかいあってか毎日お客さんがおいでになります。オーストラリアやニュージーランドなどのワイナリーは、直接消費者が行ってワインを買うことが出来るところが多いのです。おいでになる方はさまざまで、地元を含めて西オーストラリアの方が3分の1、ニューサウスウェールズ、ヴィクトリア、クイ―ズランドなどオーストラリアのほかの州からのお客さんが3分の1、残りの3分の1は海外からのお客さんです。

 マウントフォードワイナリーのお客さんに対する姿勢は、来ていただいたお客さんをがっかりさせない、ということです。ワイナリーは来てくださるお客さんがはるばる遠くから何千キロ、何万キロをかけて訪ねてくれているということを知っています。そのためワイナリーには定休日がありません。

 訪ねてくるお客さんのほとんどは、マウントフォードワイナリーのことを事前に知っていてそのために訪ねてくるわけではありません。たまたまその地を旅行していてふらりと立ち寄る人たちです。彼らのほとんどは二度とその地を訪れることはないだろうということもワイナリーは知っています。しかしそれでもワイナリーの側は、たまたま立ち寄ったワイナリーが閉まっていたというのでは、その人たちのせっかくの旅の思い出がほんの一瞬でも損なわれてしまう、と思うのです。もちろん来ているお客さんは、マウントフォードのワイナリーがそういうつもりで来てくれる人を迎えているなどということは知りません。それでもそういう心遣いは何かしらお客さんに伝わるものであるようです。

 おそらくもてなしの心、ホスピタリティというのは、あなたのためにこうこうこんなことをしています、などということではなく、ごくさりげなく相手に意識させることもなく相手を気分よくさせる、そんなことを言うのだと思います。休みの日に町のカフェでお茶を飲んでいるときなどに、隣のテーブルの旅行者がほかの人に、『昨日行ったマウントフォードっていうワイナリー、とってもよかったわよ』などという話を小耳にはさんだときにはとてもうれしく思います。


さりげなさが肝要

 日本は古来より、礼に始まり礼に終わるという非常に形式を重んじる国であります。ガソリンスタンドなどで、客の車が見えなくなるまで深々と頭を下げている姿をよく見かけます。あるいはコンビニエンスストアやファーストフードのハンバーガーショップなどでも、いらっしゃいませ、ありがとうございましたと連呼している姿も日常です。しかし彼らのこうした言動がどれほど消費者を満足させているかは一度よく考えてみるとよいと思うのです。こうした画一化された言動は、多分に自己満足的だと思うのです。頭を下げておけば、ありがとうを言っておけば、何かいかにもお客様のためにやっているということをアピールできるという思いがあるのかもしれませんが、消費者の求めている真のサービスとはずれています。

 ワインショップ、あるいはレストランで消費者が求めるサービスはもう少し何かほっとするもの、和やかな気分になるようなものであるといいと思います。これはマニュアルなどに書くことは出来ません。ですからどこかの講座や教室に通って習得することも難しいことでしょう。店の持つホスピタリティの根源は、その店の経営の根本部分に由来します。その店が来店する客をどう見るかはおのずと客の扱いに現れます。もちろん店側にも客を選ぶ権利はあると思いますが、善意の消費者が、その店でワインのことをよく知らないからと言って何かばかにされた扱いを受けたり、説教を受けたりするというのはいかがなものかと思います。

 買い物がすんで、その店でお金と商品の交換が終わると、店の側はお客にありがとうございました、と必ず言います。しかしそのとき客のほうがあなたや店のスタッフにニコニコ笑って、ありがとうと言うことはあるでしょうか。客がよいサービスに接し満足を得たときは、たとえお金を支払っていたとしても自然に店側に感謝の気持ちを示します。私はこういうやりとりが店の側と客との間でごく自然にされるというのはすばらしいことだと思います。こういう光景は見ていてとても気持ちのいいものです。皆さんのお店がこういう店の一軒であることを信じています。


(伊藤嘉浩)

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