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 ワインの流通、販売にかかわる人々への情報提供について考える


先ごろ私はいくつかのワインの試飲会に参加する機会を得ました。それらは一般の消費者を対象にした試飲会ではなく、ワインの流通や販売にかかわる人たちを対象とした、いわゆるプロといわれる人たちに対する試飲会です。

私はそのいくつかで非常にショッキングな場面に遭遇することになりました。それは不正確なあるいはまったく正しくない情報が、まことしやかに伝えられているという実態を目の当たりにしたからです。

確かに世の中に流れる情報がすべて正しいなどということはないのですが、少なくともその道のプロといわれる人たちの間ではより正確な情報が流される必要があります。そうでなければ消費者に正しい情報は伝わらず、健全なワイン市場にはならないのではないでしょうか。


情報の出し手と受け手

ワインという飲み物は一般的な消費者からすると、かなりとっつきにくい存在であります。その大きな理由はワインのもつ複雑性にあると思われます。ワインではあらゆることが複雑なのです。味といい香りといい、ぶどうの名前といい産地といい複雑極まりないのです。さらにその元の部分にはぶどうの栽培や醸造といった分野がかかわりますから、これはもう五里霧中です。

ワインの市場は少し乱暴な言い方かもしれませんが次の3つの人々によって構成されています。ひとつはワインを飲む人、つまりワインを消費する人々です。ひとつはワインを造る人たちです。さらにもうひとつはワインを仕入れて売る人たちです。

ワインの世界ではワインを造る側から消費する側に、その仲立ちをする流通業者によって商品が手渡されるわけですが、実は流通業者は単に商品のやり取りだけをしているのではなく、それと一緒に無形の情報もやり取りしているのです。もちろんワインに関する情報のやり取りは流通業者によってのみ行われるということはありませんが、しかし日本の市場の現状を見る限りその要素は大きいのではないかと思います。

日本は基本的にワイン生産国というわけではないせいか、ぶどうの栽培やワインの醸造の分野の情報が不足しているようです。したがってことこの分野になると、情報を発する側もどうもはっきりとしたことはわからないまま、あやふやなことをいっている場合が多いようです。情報を受ける側はそのあやふやな情報を真に受けますから、正しくない情報が巷に流布する結果になってしまいます。


具体的な事例

あるワインの試飲会で、ボトルのネックに小さなシールが貼ってあるワインを見かけました。その意味をたずねましたところ、このワインは酸化防止剤を使ってないワインである由の説明を受けました。

さらに続けてエスオーツーを使わないワインは甘い香りが出るという説明を受けました。また、たいていのワインにはエスオーツーが入っているがこのワインには入っていないのでより自然だという説明も受けました。

エスオーツーとは化学記号で書けばSO2、つまり二酸化イオウのことです。この物質がワインに果たす役割については皆さんの間ではぼんやりと知られているのではないかと思いますが、しかし実情はよくわからないというのが正直なところかと思います。よくわからない分野のことを断定的かつ声高に言われると、そうかと思ってしまいます。しかしそのことが正しくなかったとしたら・・・。

ワインと二酸化イオウについての話は機会を別に譲りますが、よくわからないことをわかったようにいうというのはいかがなものかと思います。二酸化イオウを使っていないワインには甘い香りが出るのでしょうか。

ワインを二酸化イオウを使わないで製品化するというのはワイナリーにとって大変な決断と資金が要ります。あるワイナリーがそれを実践するにはそのワイナリーのもつ基本的な方針やものの考え方が関係します。

というのは、現代のワイン造りにおいて二酸化イオウを使わないでワイナリーの中でワインを管理するというのは非常にリスキーなことだからです。ワイナリーはワインの酸化やバクテリアなどによるワインの品質劣化を別の形で防止しなければなりません。

確かに二酸化イオウはぶどう本来はあまり持っていない、外部的な化学物質です。その意味で二酸化イオウを使わないでワインを造ればより自然だといえると思います。しかしその結果として出来上がったワインが品質の点で問題があるとしたら、消費者はどちらを選ぶのでしょう。

私は二酸化イオウを使わないで造ったワインを否定しているのではまったくありません。私がここで言いたいのは、二酸化イオウの功罪を、ワインを商ういわゆるプロの人たちはきちんと理解すべきだということです。でないと何も知らない消費者は、操作された情報によってワインを選ぶことになります。またそれを仕入れて販売する中間の流通業者・小売業者も、知らずに汚染された情報を信じてその情報をばらまくのに一役買う結果となってしまいます。


正しい情報はどこからやってくるのか

大量の情報が行き来する現代社会においては、どれが正しい情報でどれがそうでないのかを見極めるのは非常に難しいことです。その情報が正しいかどうかを確かめる最良の方法は自分で実際に確かめることです。しかしこれは必ずしもそうできるとは限りません。

次善の策は何かといえば、信頼できる情報源を持つことだと思います。情報は信頼性があってはじめて価値をもちます。私は信頼できる情報源をもつこともそう簡単なことではないと思いますが、あなたがワインの流通と販売にかかわっていらっしゃる以上、ぜひその信頼できる情報源を持つことに高い優先順位を与えてほしいと思います。

ワインの販売はいくらで仕入れていくらで売るかだけを考えているだけでは不十分です。ワインをたくさん売るには、ワイン周辺のたとえばマーケティングやマネジメントも含んだ幅広い正しい、しかも役に立つ情報が不可欠です。そしてこのことは必ずあなた自身をブラッシュアップさせ、ワインの売上を増加させます。

今ひとつ考えておいてよいことは、その仕入れた情報をどう出すかです。試飲会などでよく見かける光景の一つは、非常にテクニカルなことを話している場面です。MLFについてなどはその一例です。このシャルドネはMLFが起こっているとか、これは起こっていないとかというぐあいです。

確かにマロラクティック発酵についてのメカニズムとそれのワインに与える影響については知っておく必要があります。それはマロラクティック発酵がワインの個性、特に風味や酸度に影響を与えるからです。

MLFを起こさせるか否かはひとえにワインの造り手の側の好みであって、善悪の問題ではありません。考えるべきは、そのワインが持つスタイルが自店の品揃えに必要かどうかという点です。ですからレストランにしろ酒販店にしろインポーターあるいは卸業者にしろ、その顧客に対してこのワインはMLFが起こっていますという情報だけを出してみてもそれ自体ほとんど意味を持ちません。

こういう専門的な用語を使うことがワインの販売には必要なのだという思い込みは非常に危険です。まして、その中身についてよくわからないで、そこに言及するのは愚の骨頂です。しかしMLFについて知ることはワインの流通、販売にかかわるプロの人々には、プロであるバックボーンとしては必要なことでありますから、ぜひ正確なことを知っておかなくてはなりません。その際に必要なことは、なぜMLFについての知識が必要であるのかの認識です。

わたしは今の日本のワインの販売、流通の現場がどうも情報のやり取りと正確性においていびつになっているような気がします。皆さんはいかがお考えでしょうか。

(伊藤嘉浩)


ワインと二酸化イオウのかかわりについては、専門資料(有料)を用意しています。こちらをご覧ください。


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