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ボジョレーヌーボーと日本のワイン市場
日本のワイン市場を見るときには、どうしてもボジョレーヌーボーを見ておく必要があります。それは日本のボジョレーヌーボーの市場を見ることによって、日本のワインマーケット全体がとてもよく見えてくるからです。
ボジョレーヌーボーは、日本では最もワインの売り上げが上がるイベントのひとつです。後で見ますように、世界に出荷されたボジョレーヌーボーのおよそ半分は日本に輸入され、消費されています。
日本のワイン消費量全体からすると、身の丈に余る量のボジョレーヌーボーが消費されていることになりますが、消費者との接点の現場である小売業やレストラン・バーなどの料飲店では、常に売れ残りや売り損じのリスクを抱えてのいわゆるギャンブル的な商売という側面も持ち合わせています。
今回はなぜ日本ではボジョレーヌーボーだけが突出して高い売り上げを示すのか、なぜボジョレーヌーボーがほかのワインの消費増に貢献しないのか、その手立てはないのか、今後の日本におけるボジョレーヌーボーはどうなっていくのかといったことを見てみたいと思います。
世界のボジョレーヌーボー市場と日本のボジョレーヌーボー
まずは表1をご覧ください。これは2007年のボジョレーヌーボーの世界市場への出荷量です。ご覧になってわかるとおり、日本へのボジョレーヌーボーの出荷は突出していて、全体の出荷量のほぼ半分を占めます。
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2007年 (C/S) |
構成比 |
一人当たりのワイン消費量(リットル) |
1. |
日本 |
688,500 |
46.0 |
2.0 |
2. |
アメリカ |
212,700 |
14.2 |
8.7 |
3. |
ドイツ |
171,800 |
11.9 |
24.5 |
4. |
オランダ |
81,800 |
5.5 |
21.2 |
5. |
ベルギー |
54,700 |
3.6 |
26.0 |
6. |
イタリア |
32,500 |
2.2 |
48.1 |
7. |
台湾 |
21,500 |
1.4 |
0.8 |
8. |
スイス |
33,300 |
2.2 |
40.0 |
9. |
チェコ |
30,100 |
2.0 |
12.7 |
10. |
イギリス |
20,100 |
1.3 |
19.0 |
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世界 計 |
1,499,600 |
100.0 |
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〈表 1〉
ボジョレーヌーボーの世界市場における構成トップ10
日本は数量ベースでは2007年度は46パーセントだが、金額ベースでは54パーセントとなっている。
Source: SOPEXAの資料を加工して計算(100ケース単位四捨五入) 単位:ケース(750ML/12)
※一人当たりのワイン消費量は、2005年の世界統計による
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なぜ日本でこれほどの量のボジョレーヌーボーが販売され、飲まれているのかを探ることは非常に興味深いことですが、ここで私が一番指摘したいのは、ボジョレーヌーボーの大量消費は数年にわたり継続しているという事実です。これは日本のマーケットでは(酒類マーケットに限らず)非常にまれなことです。
日本のマーケットはよく瞬間湯沸し型といわれるように、一時だけ急速に燃え上がるものの非常に短期間でブームが沈静化するというのが一般的で、ひとつの商材が長期間大量消費され続けるというのは極めてまれな現象です。
表1からも類推できるとおり、日本以外の世界市場では、各国のワインの総消費量から見て、ボジョレーヌーボーが特別なワインで、マーケットに大きな影響を与える商品であるとは考えづらいことがわかります。(台湾は一過性のブームが押し寄せたものと思われます。)
表にはあらわれていませんが、ボジョレーヌーボーの輸入国の10位以下の国はどれもボジョレーヌーボー市場の1パーセント以下のシェアを占めるにすぎません。
さてではなぜ日本ではボジョレーヌーボーがこれほど売れるのか。そこにはどうも日本特有の事情がありそうです。考えられる理由をいくつか挙げてみましょう。
- ブームは1997〜98年の赤ワインブーム以降に起きており、赤ワインへの導入として適材だった。
- マスメディアのタイムリーな各媒体での取り上げ。
- ブームに乗り遅れまいとする特有の消費者心理。
- 年に一度のパーティタイム。
- その時だけしか手に入らないという商品の特殊性。
- 出来立てであるという日本人を意識したマーケティング。
- 毎年継続して買っている。
- 消費者が裕福である。
などが挙げられるでしょう。
全般論としてはおよそ上記のとおりだと思います。重要なのは、このブームは長期にわたり継続しているということです。なぜボジョレーヌーボーは継続しているのか。今後はどうなるのか。気になるところです。
表2をご覧ください。表2は、2000年から2007年までの日本のボジョレーヌーボーの輸入数量の推移です。数字だけを追っているとそんなものかということになりますが、これらの数字の推移からいろいろなことが読み取れそうです。またそれが今後のボジョレーヌーボーの市場、しいては日本のワイン市場を予見する材料になるかもしれません。
年 |
2000 |
2001 |
2002 |
2003 |
2004 |
2005 |
2006 |
2007 |
日本 |
531,200 |
596,600 |
654,600 |
717,300 |
1,043,700 |
975,100 |
955,000 |
688,500 |
〈表 2〉
日本のボジョレーヌーボーの輸入量の推移 単位:ケース(750ML/12)
Source: SOPEXAの資料を加工して計算(100ケース単位四捨五入)
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なぜ日本のボジョレーヌーボー市場は継続しているのか
ボジョレーヌーボーは日本では、2007年はおよそ800万本、それ以前の3年間は1000万本を超える輸入となっています。年によって若干の売れ残りはあったとしても、そのほとんどは消費されています。
日本の20歳以上の飲酒可能人口は、およそ1億人です。1億人すべてがお酒を飲むと仮定しても、1000万本のボジョレーヌーボーが消費されたということは、日本国民の10人に1人はボジョレーヌーボーを買ったという計算になります。
1億人すべてが酒を飲むわけではありませんから、実際は7〜8人に1人の割合でボジョレーヌーボーが買われ続けていると見てよいでしょう。これは驚くべき数字です。
もし一度買って飲んだボジョレーヌーボーが気に入らなかったら、たとえ1年に1回のお祭りであったとしても、次の年もまたその次の年も買おうという気にはならないでしょう。つまり、ボジョレーヌーボーを買っている消費者は、ボジョレーヌーボーの味が好きだということになります。
その上に、たとえば今年のヌーボーは出来がよさそうだといったメディアからの事前情報が購買期待を膨らませます。しかも日本で販売されるボジョレーヌーボーは空輸であるために、小売価格はかなり高くなります。価格が適度に高いというところがまた消費者には受けるところでもあるようです。現にここ2〜3年の動きは高額のボジョレーヌーボーのほうから売れていくという動きも出てきています。
日本におけるボジョレーヌーボーの今後
ボジョレーヌーボーは日本においては非常に大きな市場で、高額なワインが極めて短期間に大量に売れる大きな商機ですが、今後もこの傾向が続くのかどうかが気になるところです。
この原稿を書いているのは2008年の7月ですが、直近の2〜3年で消費者がずいぶん変化してきているように思います。たしかに消費者はボジョレーヌーボーを買い続けているのですが、その中身を見てみますと面白いことがわかります。
大きな変化が見られるのは、消費者がワインを吟味し出したという点です。はじめのうちはボジョレーヌーボーなら何でもよかったのが、何年も飲み続けるうちにボジョレーヌーボーの記憶が蓄積され、自分の好きなタイプが出来つつあるのです。
つまり、消費者が自分の好みのワインの基準を持ち始めたということです。このことは大きなことで、大量に輸入されるボジョレーヌーボーの品質にはかなりのばらつきがありますから、品質の伴わないワインは淘汰されるという時代が実は目の前に来ているということです。
先にも述べましたとおり、日本でのボジョレーヌーボーの価格は空輸であるため高価です。そのため、消費者がワインの中身を吟味し始めると、価格と中身が見合っていないと判断されたワインは、敬遠されていくでしょう。これは、品質を伴っていないワインを扱っている店を敬遠していくということでもあります。
さらに好みとするボジョレーヌーボーの飲み口に変化がでてきています。初めのころはいかにもボジョレーヌーボーらしい、チャーミングなワインが好まれていたのが、最近ではしっかりとした飲み口のボジョレーヌーボーに消費者の好みが振れてきています。それはマセラシオンカルボニックによる発酵をおこなっていないボジョレーヌーボーが好まれるようになってきていることにも現われています。
さてそれらさまざまな変化を総合してみますと、日本のボジョレーヌーボーの市場はいきなり急激に落ちることはないものの、徐々に低減していくものと思われます。しかし依然しばらくはワインの大きな販売チャンスであることには変わりないでしょう。
ボジョレーヌーボー販売時は絶好の顧客獲得・顧客固定化のチャンス
日本のボジョレーヌーボーの市場の大きな特徴のひとつは、ボジョレーヌーボーをお買いになる消費者の非常に多くが、1年でワインを買うのはボジョレーヌーボーのときぐらいであるということです。つまり、ボジョレーヌーボーは買うが、通常ワインというものはあまり買わないという消費者がとても多いということです。
これはワイン界・ワイン流通業界としては見過ごせない事実です。ボジョレーヌーボーをお買いになる消費者の多くが日常的にほかのワインも買ってくれるとしたらどうでしょう。
いまのところまだ非常に多くの消費者が、ボジョレーヌーボーを買いにその時期に店頭にやってきてくれます。それらの消費者は、ボジョレーヌーボーは何度も買っています。しかしそのほかのワインはあまり買っていないのです。もしこれらの消費者があなたの店の常連になってくれるとしたらどうでしょう。
ボジョレーヌーボー販売時はお店の顧客を増やし、リピート化をうながし、顧客の固定化を図る絶好の機会です。ワールドファインワインズでは、2007年のボジョレーヌーボーの販売時に非常に有効な販促手法をご提案申し上げました。商戦終了後、マーケットの多くの皆様からフィードバックを頂戴致しまして、その有効性は評価されたと思います。
全体としては今後のボジョレーヌーボー市場は縮小傾向にあると思いますが、まだボジョレーヌーボーが大きな市場であるうちに、この機をとらえて有効な策をお打ちになると、ボジョレーヌーボーそのものの販売拡大だけでなく、継続的な顧客の獲得に大きく寄与することになると確信します。ぜひ、ボジョレーヌーボーを戦略的にお使いになることをお薦めいたします。
(伊藤嘉浩 2008年7月)
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