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赤ワインはなぜ赤い

このページは、【Wine MakingTasting】【Wine Talk】のセクションに掲載されています。


 赤ワインはどうして赤い色をしているのか。白ワインはどうして色がついていないのか。ワインに携わっておられる方にとっては、ばかにしたような問いかもしれません。しかし、普段ワインを好きでお飲みになる方々にとっては、意外に『へーっ』と思う部分もありそうです。もしかすると専門家の皆さんもへーっと思われるところがあるかもしれません。


ワインの赤い色はどこから来るのか

 最近は秋になると、スーパーマーケットの店頭でもいろんな種類のぶどうが並ぶようになりました。そのぶどうの房の色を見るとグリーンだったり、黒かったりしています。ピンクがかっているものもあります。

 赤ワインのあの色は、房の色が黒いぶどうの黒い部分、すなわち果皮の色素成分が果汁に染み出して魅力的な赤色を出しているわけです。

収穫3週間ほど前のCabernet Sauvignon
(カベルネソーヴィニオン)


 最近では巨峰などの黒い色をしたぶどうを食べる機会も多いかと思いますが、その皮をむいてみると、果肉は黒くはありません。黒い部分は果皮の部分だけです。赤ワイン用のぶどうも同じで、果皮は黒くても中身の果肉は黒くはありません。したがって、赤ワインのあの赤色はぶどうの皮の部分から出る色だということになります。数あるぶどう品種の中には、果肉も赤い(黒い)という品種があるようですが、世界を流通しているワインの圧倒的大多数の原料ぶどうは、果肉は白です。

 果肉は白と書きましたが、実際の色は白(ホワイト)ではありませんし、白ワインといっても色が本当に白いわけではありません。また赤ワインといっても実際のぶどうの色は赤くはなくむしろ黒です。

 しかしワイン界では、ワインの色を赤・白・ロゼと言っていますから、ここからは慣例にしたがってたとえ赤くはなくても赤、白くはなくても白という表現を使うことにします。


白ワインはなぜ白い

 これは赤ワインの逆で、白ぶどうには果皮にも果肉にも赤色の色素がありませんから、これをジュースにしてワインにしても白は白のままということになります。

収穫されたSauvignon Blanc(ソーヴィニオンブラン)


 では、ロゼワインはどうか。なぜロゼワインはピンクなのか。あるいは、たとえばPinot Gris(ピノグリ)、甲州などのように果皮に色がついているぶどうではどうか。さらには、Pinot Noir(ピノノワール)やPinot Meunier(ピノムニエ)から造られるスパークリングワインが赤くないのはなぜか。などなど、ちょっとした疑問も湧いてきます。次にこれらの事を簡単に見てみましょう。


ロゼワインはなぜピンクなのか

 ロゼワインはなぜ赤と白の中間色になるのでしょうか。ワインをロゼにする方法はいくつかあり、ワイナリーによって使う方法がすべて同じとはかぎりません。しかしおおかたは、黒ぶどうを使って白ワインを造る方法を適用しているものと思われます。

 赤ワインを造るためには、色が赤くなくてはなりませんから、果皮から赤色成分が果汁やワインに染み出す必要があります。赤色成分は果皮の細胞内にありますから、果汁が赤く染まるには、色素成分が細胞壁を破って外に染み出す必要があるのです。このことをマセレーション(maceration)と言います。ちなみにその赤色成分をアントシアニン(anthocyanins)と言っています。

 ですから赤ワインを造るときは、果汁と果皮を一緒にしておいて、赤色成分が十分ワインに染み出すということをするわけです。

発酵途中のロゼのサンプル
ぶどう品種はPinot Noir(ピノノワール)


写真はすべて西オーストラリアMountford Winery


 ロゼワインを造るのに、黒ぶどうを使って白ワインを造る方法を用いるとは、果汁と果皮の接触時間を短くして、赤色色素成分の浸出をコントロールするということです。実際は、ぶどうの色づきや品種特性により扱いは変化しますが、ぶどうを破砕しただけでロゼワインを造るのに十分な色素を得られることも多く、この場合はまったく白ワインの醸造と同じステップをとるということになります。

 たとえば赤ワインを造る際に、ぶどうの色づきが十分でなく、薄い色の赤ワインになってしまうと判断されたときは、マセレーションの初期に果汁の一部をタンクから抜くということが行われるかもしれません。

 こうすると果汁に対する果皮の比率が高まり、ワインの赤の色が濃くなるわけです。すると抜かれた部分の果汁は、赤ワインにするだけの色ではないというところから、ワイナリーはその果汁をロゼに利用しようと考えるかもしれません。

 そのほかにもロゼにする方法として白ワインと赤ワインを単純に混ぜるという方法も可能です。ワインをロゼにする手法はいくつかありうるわけですが、その選択はワイナリーにゆだねられています。


ピノノワールから造られるシャンパーニュはなぜ白い

 シャンパーニュ(Champagne)のぶどう品種は、Pinot NoirとPinot Meunier(ピノムニエ)、それにChardonnayの3種類です。Pinot NoirとPinot Meunierは黒ぶどうです。シャンパーニュの多くはPinot NoirとPinot Meunierを主体に造られています。(もちろんChardonnayも多く使われます)

 しかし出来上がるスパークリングワインは、一部のロゼを除いて白です。なぜ黒ぶどうを使っていながらシャンパーニュは白なのでしょう。前項で見たように黒ぶどうを使って白ワインを造る手法でワインを造ると、ロゼになります。ですがシャンパーニュは基本的に白です。なぜシャンパーニュには赤色の色素がないのでしょう。

 実を言うと、Pinot NoirやPinot Meunierを使ったスパークリングワインを造るとき、はじめのベースワインはロゼなのです。つまり前節に書いたように、黒ぶどうに白ワインを造る手法を用いるのです。するとロゼのベースワインができます。しかし醸造工程が進むうちに段階を経て徐々に色が退色していくのです。

 その詳しいメカニズムについてはここでは触れません(脚注1)が、我々が楽しむあの黄金色をしたシャンパーニュも、実は一番初めの段階では赤い色がついていたのです。

 
 ワインの色は、それが何色であってもとても神秘的です。同じボトルに詰まったワインでも、年月がたつと色調が変化しますし、同じぶどう品種で造られたワインであっても、ワインごとに色は異なります。ワインを楽しむという観点からは、ワインの色というのは大きな魅力のひとつとなっています。

 テースティングにおいては、色(色調)というのは概して軽く見られる傾向があります。しかしワインの色というのは、実は非常に多くの情報を発信しています。使われたぶどうの品質はどうであったか、ワインの品質にどう影響を与えているか、ワインの健全度はどうか、どういう環境でワインが造られたか、現在のワインの状態はどうか、香りに影響を与えているのではないかなどなど、香りを嗅いだり味をみたりする前にも、その色調からいろいろな情報を得ることが可能な場合も多いのです。

 『赤ワインはなぜ赤いのか』というのは、消費者の皆さんからは時折聞かれることです。この質問は、『ワインに関する20の質問』の一番初めに載せている質問です。『ワインに関する20の質問』に掲載されている質問はどれも、消費者の皆さんからの質問です。ワインの流通・販売に携わっておられる方からすると、どれも一見取るに足らない簡単な質問と思われるものも、きちんとわかりやすく、難しい言葉を使わないでお伝えするというのは、実は簡単ではないと思い至っています。


(伊藤嘉浩 2008年6月 写真とも)



【関連ページ】

ワインに関する20の質問
ワインは売るのにそんなに難しい商品か
ワインの根本部分を知ることの意味
現代のワイン造りー科学と芸術のはざま

ワイン消費者は、こんなところでつまずいている』



(脚注1)
なぜ黒ぶどう品種を使ったスパークリングワインが白になるのかの詳しいメカニズムにご関心がある方は、『WORLD FINE WINES電話サポート』をご利用ください。詳しくはこちらへどうぞ。


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