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世界のワインは中国を目指すーその実態と実情【Part 1】  【香港】 2010年6月1日


近年世界のワイン関係者の間で、中国のことが話題にならないことはないと言っていいほど、世界のワイン界が中国市場に関心を寄せているのは確かです。


そんな中、2010年5月25日から27日までの3日間、香港でVinexpo Asia-Pacific(ヴィネクスポ アジア−パシフィク)が開催されました。

そこでは話題の中心である『中国』『香港』のマーケットを中心に、アジア全体のマーケットを見据えた世界のワイン界各社各様のさまざまな思惑が見てとれ、非常に興味深いイベントでありました。



『中国』と『香港』のワインマーケットはその中身と背景はかなり違う

実際には中国とひとくちに言っても、『中国本土』と『香港』とでは、ワイン市場も体制もかなり違い、ほとんど別物としてみる必要があるようです。


【中国編】

中国も香港も近年著しいワインの伸びを見せているマーケットです。ワインの輸入量の増加はどちらも急増していて、世界のワイン界が注目するのは当然です。

しかし中身を見てみると、マーケットの中身や伸びの背景はかなり違うものがあるようです。

中国本土の人たちにとって、ワインというのはきわめて新しい、西洋のトレンディな飲み物です。急速に成長した富裕層や、今では一部の中間層の人たちにとって、ワインを飲むというのは、ひとつの時代の先端であり、ステータスのような感覚があるようです。

中国本土では、圧倒的にボルドーワインの知名度が高く、とりわけシャトーラフィットのネームバリューは圧倒的だと言います(脚注1)。興味深いのは、彼らははじめから赤ワインを好んでいることで、それがボルドーという知名度で飲んでいるのか、本当に赤ワインの味が好きで飲んでいるのか、今一歩確信が持てません。

シャトーラフィットとシャトーマルゴーとシャトーペトリュスの3本が並んでいたら、彼らは間違いなくラフィットを選ぶそうです。ワイン関係者の指摘によれば、ボトルの中身が500円のワインであれ、10,000円であれ、100,000円であれ、ラフィットのラベルが貼ってあればそのワインを買う、それほどラフィットのブランドイメージは高いのだそうです。

このことは、言い換えるとワインの中身はどうであってもかまわないということになり、実際中国での成功は、ワインの導入期である現在では、いかにブランドイメージを定着させるかにかかっていると言っていいようです。

こういう指摘を聞くと、いかにも中国のレベルが低いと見下すような見方が多くなるわけですが、私はこうした現象は世界中多かれ少なかれ同じで、ほかのワイン消費先進国といわれる国の消費者も、実のところ似たり寄ったりではないのかと思っています。

世界のワイン関係者は一様に、中国のマーケット関係者と消費者教育の重要性を挙げており、これが行われない限り、ワインの面での広がりは難しいとの指摘もあがっています。

今後中国が更なる経済成長を遂げて行けば、全体的な所得水準も上がり、ワインに限らずさまざまな消費財に中国の人たちの食指が伸びるのは当然の流れのように思います。中国でのワインビジネスは現状では未知の世界とも言え、これからのマーケットの舵取り次第で大きくその行方が変わりそうだともいえるのではないでしょうか。


【香港編】

中国本土のワインマーケットに対し、香港のワインマーケットは、同じように高い伸びを示していながら、かなり事情が違うようです。

香港のワインの急増は、2008年2月から実施された(脚注2)関税の撤廃の影響が大きいことは明らかです。

これによりワインの店頭価格は下がり、消費増に貢献しているのは確かです。実際香港のワインの小売店頭価格を見てみると、全般的に日本より少し安いのは確かです。中には20パーセントから30パーセント程度安いワインも散見され、日本からのワインファンには掘り出し物もありそうです。現に関税撤廃以降、香港では新しいワインショップのオープンが続いているといいます。

さて香港でのワインビジネスを見る上で非常に重要な点は、香港が明らかにアジアにおけるワインの流通の拠点、いわゆるワインのハブになりつつあるということです。

香港に世界から流入するワインは急増しているわけですが、それらすべてが香港で消費されているわけではありません。それらのワインの多くは、周辺の国々に再販売されるケースが多くなっているようです。

Vinexpoの会場では、多くの国の方々とお目にかかりましたが、シンガポール、マレーシア、インドネシア、韓国、台湾などの方々は、香港のワイン業者から混載でワインを輸入できるのはとても便利だと言っていました。


【日本への影響】

日本のワインのインポーターも、直接ワインをワイナリーから輸入しているところばかりではありません。ですから、彼らにとっても香港からワインを調達できることは、わざわざヨーロッパのワイン業者から輸入しなくても良いと考えれば、朗報ととらえているところもあるかもしれません。

ただ現状では、ワインの輸送・保管といった品質管理面と価格の問題で、どちらにメリットがあるのか必ずしも明らかではないのかもしれません。しかし、たとえば日本の小売業やレストラン・バーなどへの香港の業者からの直接輸入の道(ワイナリーからの直接輸入という意味ではありません)が従来より容易に開かれることになるかもしれません。

香港政府のとったワイン関税撤廃策は、アジア全域でのワイン消費の増加を見込んだ、アジアでのワインビジネスの拠点を獲得するという大きな経済戦略であるといえるでしょう。


ヨーロッパの大量ワイン消費国のワイン消費は減少する一方です。現状は、ヨーロッパ以外の世界市場の拡大が、その減少分を補っています。もし中国が本格的にワインを飲み出すことが現実化すれば、世界のワイン生産者にとってこの上ない朗報といえるでしょう。

しかし果たして本当にそんなにうまく物事が進むのかどうか。今後の中国と世界のワイン界の動きを注視していきたいと思います。

最後になりましたが、Vinexpoの会場では各国のワイン生産者達から熱心に日本の市場について聞かれました。彼らは日本にはワインをきちんと理解する優れた消費者がたくさん存在するということを知っています。しかし同時に自分の(自社の)ワインがなかなかその消費者に届かないという現実も知っているようです。

中国のワイン消費が増加したとしても、それ自体が日本に直接影響を及ぼすことはあまりないように思います。しかし日本のワインマーケットはかなり硬直化していて、いわゆるガラパゴス化をしているようにも思います。是非世界の優れたワインが、日本の消費者に届くようになるといいと思います。

(伊藤嘉浩)



『 世界のワインは中国を目指すーその実態と実情【Part 2】』を、『WORLD FINE WINESニュースレター』で配信しています。

【Part 2】では、Vinexpoで気になったこと、中国ワインの品質、中国本土のワイン政策、2009年のボルドーワインの品質などについて述べています。

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【関連ページ】

(脚注1)
シャトーラフィット、中国でワイン生産へ 【中国・フランス】 2009年3月31日』

(脚注2)
香港、アジアのワインハブとして着実に成長 【香港】 2009年12月15日』

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