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TCAにはにおいがない??−報道の誤謬 【日本】 2013年11月14日


2013年9月21日、WORLD FINE WINES on line “Latest Wine Topics”に、『 ブショネの原因物質TCAは、嗅覚を減衰させるー大阪大学が研究を発表』を掲載いたしました。

この記事の骨子は、コルクテイント(ブショネ)を起こす原因物質であるTCAは、たとえ人間の嗅覚が検知できないごく微量の存在であっても、その物質(TCA)が人間の嗅覚を阻害して、ほかのにおい成分をもマスキングしてしまうことを実証した研究として紹介したものでした。

この研究は、大阪大学大学院生命機能研究科・竹内裕子助教、倉橋隆教授、大和製罐株式会社・総合研究所所長 加藤寛之博士が発表したものですが、新聞をはじめ、多くのメディアに取り上げられました。

ところがその報道を見ておりますと、内容を正しく報道したメディアもありましたが、多くのメディアで『ブショネ(コルクテイント)の原因物質であるTCA(トリクロロアニソール)には、実はにおいがない』とする報道がなされました。同様の記述はインターネット上のブログにも散見されます。

私は元の論文を読み返し、大阪大学大学院生命機能研究科が発表している、わかりやすい論文解説も再度読み返しましたが、『TCAにはにおいの実態がない』というふうには読めませんでした。

たまたま先日ある会合で、この論文の執筆者のひとりである大和製罐の加藤寛之博士にお目にかかる機会がありましたので、そのことをお尋ねすると、メディア報道の多くが間違った報道をしているとおっしゃいました。博士いわく、TCAににおいはないなどと言っていないということでした。しかし現実にはそういう報道が多くなされ、手の打ちようがないとおっしゃっていました。

世界のワイン界では、かねてより閾値以下のTCAの存在が、ワインのにおいを減衰させるのではないかと言われてきました。ありていに言えば、そのワインが持つ本来あるべきにおいより香らないということですが、私もその可能性はあると思ってきました。

ただそれは、日常的にそのワインを良く知っていたり、過去に経験していて記憶と照らし合わせられるワインに限られ、初めて接するワインでは、それが本来と違うワインであったとしても、そういう個性のワインだろうとそのまま通り過ぎてしまいます。(もし、正常なワインとその場で比較できれば判定できるかもしれません。)

しかしTCAの閾値以下の汚染があるワインの香り成分の減衰については、そうではないかと言われていただけで、実際の嗅覚のにおい成分の減衰がTCAの存在で引き起こされていたというメカニズムの研究は、今回初めて示されました。ワインのTCAによる汚染は、世界のワイン界で最も重要な問題のひとつで、その感覚検知の研究が進んだことに、今回の研究の大きな意義があると思います。

一般の人々にとってはその場のメディアの記事ですが、ワイン界に身を置く人たちの間では、本来の研究発表とは異なった、間違った情報がすでに流れています。もしかして今後、ブショネの話題が出るたびに、多くのメディアが間違った報道をしたために、ワイン界では『実はTCAにはにおいがないのだ』という間違った情報が拡散する恐れがあります。

もしこの記事をお読みの皆様方の周りで、そういうことが言われていたら、是非正しい情報を入れてあげていただければと思います。

念のため、再度論文の全文と大阪大学大学院生命機能研究科による、わかりやすい論文解説へのリンクを掲載しておきます。

大阪大学大学院生命機能研究科のわかりやすい論文解説はこちら(日本語)

論文の全文はこちら(英語)
2,4,6-Trichloroanisole is a potent suppressor of olfactory signal transduction, proceedings of the national academy of sciences of the United States of America


(伊藤嘉浩)



【関連ページ】

ブショネの原因物質TCAは、嗅覚を減衰させるー大阪大学が研究を発表 【日本】 2013年9月21日』

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