WORLD FINE WINES   on line
Wine Brokerage & Education Servises
ワールドファインワインズ                                                     for Wine Industry Professionals
HOME
WINE MAKING
VITICULTURE
TASTING
MARKETING
HAVE A BREAK
WINE TALK
ABOUT US

SITE MAP


ワインビジネスサポート 電話サポート 専門資料のご提供


Home >Wine Talk >
Home >Wine Making >

 遺伝子操作ワインの出現で思う


 遺伝子操作技術を使って造られたワインが、2006年の年末にいよいよ商品として市場で流通しはじめたようです。ワインの世界での遺伝子操作は、過去何年かにわたり世界のいくつかの場所で研究としてはおこなわれてきましたが、その技術を使ったワインが実際の消費市場に出荷されたのはこれが初めてのことです。

 ワインと遺伝子操作とがどう結びつくのか、ピンとこないかもしれませんが、ワイン界では潜在的な火種としてくすぶっている問題であり、その是非をめぐって議論が始まっています。遺伝子操作ワインについては、まだ消費者段階や流通段階ではほとんど取り上げられることはありませんが、極めて近い将来、消費者を巻き込んだ大きな論議が始まるかもしれません。


遺伝子操作ワインとはどういうワインか

 遺伝子操作ワインという言葉は、わかったようなわからない言葉です。ワインにおいての遺伝子操作とはどういうことをいうのかを少し整理してみましょう。ワインについての遺伝子操作にはふたつの側面があります。

 ひとつは、ワインの原料であるぶどうに対する遺伝子操作です。この場合はジャガイモやとうもろこし、大豆といったほかの農産物がすでに遺伝子操作されている現状がありますから、その延長で考えればぶどう栽培でぶどうの遺伝子が操作されるということはありうる話だと思えるのではないでしょうか。もうひとつのケースは、ぶどう果汁がワインになるためには、酵母をはじめとした微生物が関与しますから、そうした微生物が人間の手によって遺伝子操作された場合です。

 遺伝子操作をされたぶどう、遺伝子操作された微生物、どちらの場合もワインをつくるにあたって遺伝子操作が関わりますから、『遺伝子操作ワイン』と呼ばれることになるでしょう。

 今回市場に出たのは、後者の遺伝子操作された酵母を使って造られたワインです。今回使われた遺伝子操作された酵母はML01と呼ばれる酵母で、ふたつの別の微生物からの遺伝子が組み込まれています。ひとつはSchizosaccharomyces pombeと呼ばれるsaccharomyces属の別の酵母から、もうひとつはOenococcus oeniと呼ばれる乳酸菌からの遺伝子が組み込まれています。


ワインで遺伝子操作がおこなわれる背景

 先に申しましたように、ワインでの遺伝子操作について話すときには、ぶどうの遺伝子操作と酵母をはじめとした微生物の遺伝子操作のふたつの側面があります。たまたま今回酵母の遺伝子操作によるワインが先に市場に投入されましたが、ぶどうの遺伝子操作に関しては世界の多くの機関で研究されている(脚注1)ようです。

 その背景には、ぶどうの病気・害虫対策があります。また従来、気候や水分供給などの自然環境でぶどう栽培には不適とされているような環境で、ぶどう栽培がおこなえるという可能性も視野に入っています。

 ぶどうの病害虫対策はぶどう栽培にとっては大きな問題で、ぶどうが病気や害虫の餌食になれば優良なぶどうの収穫は期待できなくなってしまいます。それを阻止しようと薬剤散布がされることになりますが、多くの生産者はできることなら薬剤散布なしで済ませたいと思っています。

 ぶどうが病気にならなかったり、害虫が寄り付かなくなれば、薬剤散布の対策を打たなくても健全なぶどうの収穫ができる可能性が高くなります。これはぶどう栽培者にとってはまさに夢のような話です。それは、薬剤散布にかかる労力・費用が大幅にカットできるうえ、環境問題も一挙に解決できてしまうからです。しかしその夢のような話が遺伝子操作によってもたらされるとすると・・。

 ぶどう栽培の分野での遺伝子操作にひとつの大きなきっかけを与えたのは、1990年代後半からカリフォルニアで深刻なぶどう被害を引き起こしているPierce’s Disease(ピアース病)の大ブレークがあります。これはぶどう栽培史上最悪の病気といわれ、今もって根本的な治療法はありません。2000年当初は今後10年ほどでカリフォルニアのワイン産業は壊滅するといわれたほどでした。

 そのさなか、2001年5月にフロリダ大学のDenis Gray博士らは、蚕の幼虫から取り出した遺伝子をぶどうの遺伝子に組み込むことで、ピアース病を阻止することができる可能性を発表しました。ただしこのとき博士らは、実用には少なくとも8年はかかるだろうと述べています。この発表によって、市場ではすぐにも遺伝子操作されたワインが並ぶとか、健全で良質なぶどうが大量に収穫できるため、ワイン価格が大幅に下がるなどの根拠の薄い観測が飛び交ったことが思い出されます。

 また一方で酵母、乳酸菌などのワインに関わる微生物の遺伝子研究も行われるようになっており、こちらはワインに与える個性、ワイン醸造上の関心事からおこなわれてきています。今回使用された遺伝子操作された酵母ML01は、酵母に乳酸菌の遺伝子を組み込むことにより、ワインの一次発酵であるアルコール発酵が起こっているときに、同時並行的にマロラクティック発酵が進行するというものです。これによりマロラクティック発酵を別途おこなわせるステップをとる必要がなくプロセスが簡略され、大規模なワイン生産者にとっては生産効率の上で大きなメリットだとみられています。


ワインの遺伝子操作に関する議論−その賛否

 ぶどう栽培とワイン醸造に遺伝子操作が持ち込まれることに対して、現状はどうなっているのでしょう。この問題は、それぞれの持つ考え方、置かれたポジション、科学的根拠、主義主張の違いによって、いろいろな見解が出てきています。

 ワインはイメージや雰囲気が重要視される飲み物で、最終的にはそれをお買いになる消費者の好き嫌いが大きくものをいいます。そのことを多くのワイン生産者、流通業者もわかっていますから、今のところワインの遺伝子操作については否定派、消極派が多数を占めていると思われます。

 しかし一方ではその有用性を認める意見もあり、今後一層の議論が出てきそうです。有用性の意見では、前述の病気や害虫に強いぶどうの開発ができること、それによって薬剤散布が減少すること、さらにこの議論はオーガニック農法ともつながっていて、一部のオーガニック栽培者からは遺伝子操作ぶどうの導入を歓迎する向きもあると聞きます。

 ワインへの遺伝子操作に反対を唱えている人たちは、まずはその安全性を問題にしています。それは、本来のぶどうが持つ遺伝子の中に、まったく別の種の遺伝子が組み込まれることへの将来不安です。組み込まれる遺伝子は植物のものとは限らず、動物や微生物などからのまったく異質と思われる遺伝子も組み込まれています。また、遺伝子操作されたワインは、消費者に受け入れらず、ワイン離れにつながるというのは本音でしょう。

 科学者の中には遺伝子操作による将来不安はないとの主張もあるようですが、本当に将来何も起こらないのかの検証はありません。たとえば今回使用された遺伝子操作された酵母ML01は、今後自然界に生息していくことになるかもしれません。そうなると近隣ワイナリーでもML01が存在することにもなり、どこかのワイナリーではML01が勝手に発酵を担ってしまうかもしれません。ML01はアルコール発酵と同時にマロラクティック発酵をおこなうというのですから、そのワイナリーのワインは好むと好まざるとに関わらず、マロラクティック発酵が完了してしまうかもしれません。そうなればワインはかなり個性の違うワインになってしまいます。しかしもうML01の自然界への拡散は止められないかもしれません。

 この原稿を書いている2007年2月の時点では、遺伝子操作技術を導入して市場にリリースされたワインはアメリカにいくつかあるだけです。ただし、どのワイナリーのどのワインがそうなのかは特定できません。それはワイナリーがそのことを公表していませんし、その酵母を販売した会社もアメリカのいくつかのワイナリーからML01を使って造られたワインがリリースされたと発表しただけで、ワイナリー名を挙げていないからです。

 何年か後にはもしかするともっと多くの遺伝子操作ワインが市場に出回っているかもしれません。現在のところ、消費者には何の情報も与えられていないので、たとえラベルを細かくチェックしたとしても、そのワインが遺伝子操作で造られたワインかどうかわかりません。いったんワインが出回りだして、どのワインがそうなのかの区別がつかなくなれば、遺伝子操作されたワインは飲みたくないという消費者には区別のしようがなく、勢いすべてのワインを買わないということにもなりかねません。

 これは一義的にはぶどう生産者・ワイン生産者の問題です。しかし消費者をはじめとして流通を含んだマーケットからの声は非常に重要だと思います。マーケットがワインの遺伝子操作に関して発する声は、ワイン生産者の方向を決定付けます。今後もこの分野には各分野からの発言がされると思いますが、ワインの消費サイドと生産サイド、さらにはそれをつなぐ流通の各段階ができるだけ多くの正しい情報を共有することを期待します。


(伊藤嘉浩 2007年2月)


【脚注1】
オーストラリアのワイン界、遺伝子操作ワインにノー  【オーストラリア】
遺伝子操作ぶどうにゴーサイン 【フランス】
ぶどうの遺伝子の研究でより良質なワインを目指す試み 【イタリア】


【関連ページ】

現代のワイン造りー科学と芸術のはざま
オーガニックワイン考
ワイン生産者たちはどんなことに関心を持っているか


Home >Wine Making >
Home >Wine Talk >



| Home | Wine Making | Viticulture | Tasting | Marketing | Have a Break | Wine Talk | About Us | Site Map |
  WORLD FINE WINES  All Rights Reserved   プライバシーと諸条件