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 酒類市場の現状とこれから

これまでの酒類市場の変化

2005年の現在から見ますと、過去10年、15年の酒類流通市場の変化は激変というにふさわしいものであったと思われます。その要因はいくつかあると思われますが、主な要因は

     酒類市場に価格競争が持ち込まれた
     酒類小売免許行政が変化した
     流通のチャネルが変化した
     消費者の商品選好が変化してきた

ということかと思われます。過去15年の酒類マーケットの変化が、ほかの商品流通市場での変化と著しく違うのは、この変化の大部分が行政システムの変化によってもたらされたという点です。過去の酒類流通市場は、酒類販売免許を行政がコントロールすることによって、ほとんど無競争の小売市場が形成されていました。この国税当局の政策は、酒税の安定徴収という名目で一物一価の小売価格維持に暗黙の圧力が加わっていましたから、日本の酒類マーケットは新規参入もほとんどなく、価格による競争がないという時代が1990年代初めまで続いていたのです。

この無風の酒類市場に激震が走ったのは1992年ごろであったと思われますが、それは一部の小売業者が販売する商品の価格を引き下げたことに端を発しています。これをきっかけにいわゆる酒のディスカウントが全国に波及するわけです。このときまでは酒類の小売販売価格はメーカーが決定し、その小売価格が守られるのが当然であるとメーカー、中間流通、小売業者、さらには国税当局もそう考えていましたから、それが公正取引委員会によって否定されたことは大きな出来事であったと言っていいでしょう。

この時期は、酒の流通に限らずあらゆる場面で規制緩和が叫ばれ、政府も重い腰を上げつつあった時期で酒類行政もその流れの中にありました。酒類流通のもうひとつの変化は小売免許制度の見直しです。この変化は大々的には実施されませんでしたが、消費者の利便性を考慮して、スーパーマーケットなどの大型店に対しての小売免許の付与は少しずつ実施されていきました。これにより消費者のワンストップショッピングの利便性は増したものと思われます。

酒類市場の現在

酒類市場の現在を見ますと、過去15年間に起こった変化に比べてもさらに大きな変化が現在進行形で起きつつあるといえます。そのきっかけは、2003年9月1日より実施された、酒類小売免許の実質的な自由化です。これにより、酒類を消費者に対して販売したい者には原則として酒類小売免許を与えるということになりましたから、それまで酒類を売りたくても売ることができなかった企業体などは、いっせいに免許を申請しビジネスチャンスを得ることができるようになったのです。

実際には、2003年9月1日の間際になって2年間の市場の激変緩和措置がとられることになりましたから、地域によっては免許緩和が若干遅く適用されるところもありますが〈全国のおよそ60%が当初適応地区になりました〉、いずれにしても2005年9月1日からはその例外措置もなくなり、市場は自由化されることになります。

このことは、消費者の側からすると、日ごろよく買い物に行くどのスーパーマーケットやコンビニエンスストア、あるいはドラッグストアなどでもアルコール飲料が買えることになりますから、非常に便利になると言えるでしょう。また、新規に参入してくるスーパーマーケットやCVSなどのチェーン化された企業体にとっても長年の待ちに待った参入機会です。一方、既存の小売店にとっては、10数年前に価格が自由化されて以来、厳しい経営環境にあるのに加えて、今回さらに強力な販売者が参入することになりますから、その行く末はかなり厳しいものとなるかもしれません。

これからの酒類小売市場

これからの酒類小売市場は、免許制度自体は維持されるものの、販売価格においても参入障壁についてもそのほかの消費財市場と同じように、その事業運営において特別な規制を受けるということはなくなります。ただし、未成年に酒類を販売したり、社会的公正に反するような販売をした場合は、免許が取り消されますのでその場合は市場から退場しなければなりません。

これからの酒類小売の現場は、自社/自店の経営方針を反映した売り場運営になっていくものと思われます。そこで問題となるのは、自社/自店の『経営方針』をどう設定するか、ということになってくるかと思われます。つまり、自社/自店の参入すべきマーケットがどこであるのかをはっきりさせるということです。この舵の取り方で商品構成、客層、商売のやり方が大きく変わってくるものと思われます。

酒類小売の市場規模は6兆円ともいわれる巨大市場であり(ちなみに花の小売市場は全体で1兆円といわれています)、この巨大市場の開放は、市場参入者にとってまさしく宝の山と思えることでしょう。しかしそれだけにマーケットをよく見た、的確な市場参加が求められるということでもあります。

2つのマーケットの存在

今後の酒類マーケットを見たときに、考慮しなければならないマーケットが2つ存在すると思います。ひとつはマスマーケットの存在です。もうひとつは、それ以外つまり非マスマーケットです。

マスマーケットとは、大量消費型の商品を、大量の広告媒体などのプロモーションを通じて、不特定多数の消費者に供給していくというマーケットです。このマーケットの代表的な商品として、ビール、発泡酒、チューハイ類、パック酒、大容量焼酎、大手清酒、焼酎銘柄などが挙げられます。

非マスマーケットとは、嗜好の異なった個別の消費者に、それぞれその消費者の好みにあった商品を供給していくという市場です。代表的な商品としては、個性を持ったワイン、個性を持った清酒・焼酎、リキュール類などです。

このふたつの市場規模は大きく異なり、ワールドファインワインズの試算では、全酒類市場の80〜85%程度はマスマーケットが占めるものと思われます。市場規模は5兆円程度はあるでしょう。しかし、市場全体すべてをマスマーケットが占有するということはなく、残りの1兆円程度の市場は非マスマーケットの市場となると思われます。

このふたつのマーケット、つまりマスマーケットと非マスマーケットはその性格がまったく異なるため、貴社/貴店が酒類マーケットについて考えるときは、自社/自店がどちらのマーケットを選択し、どちらのマーケットで経営を展開していくかが重要なポイントとなるでしょう。なぜそれが重要かといえば、マーケットが対象としている消費者が、それぞれのマーケットではかなり異なるからです。


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